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不実な女と官能詩人のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

不実な女と官能詩人(2019年製作の映画)
3.5
【アルノー・ルボチーニの旋律がカッコ良すぎて痺れる】
ダリオ・アルジェント『ダークグラス』のサスペリアRemixサウンドが最高すぎて音楽を手がけたアルノー・ルボチーニの担当作を掘っていたら見つけた作品。日本では文芸エロ邦題枠として紹介されている作品であるが、何気にアルノー・デプレシャンの妹が脚本に関わっている。

さて、アルノー・ルボチーニといえば『BPM ビート・パー・ミニット』もそうだが、フレンチエレクトロ系のミュージシャンである。元々、デスメタルバンドPost Mortumのメンバーだったそうなのだが、彼のYouTubeチャンネルを見るとシンセサイザーを繋いだ電子音楽を得意としているようだ。

そんな彼が本作で楽曲を手掛けているのだが、舞台は19世紀である。映画を観ると、いきなり主張の強い電子音楽の旋律がほとばしるのでジワる。特に楽曲"Curiosa"はサントラを聴き直すと、刻むビートから疾走感溢れる旋律へとシフトしていき、星が流れるような煌びやかなサウンドへと雪崩れ込む。コルセット、社会的地位に縛られ、葛藤の中、性欲が暴走していく本作の世界観を表現しているのだろうけれども、ゆったりした映画の進行に反してあまりに早いメロディラインなのでミスマッチと言える。このように明らかにサントラの雰囲気と世界観が合っていないのだが、どちらも耽美的でカッコいいため憎めない作りとなっている。

映画は、女性の官能写真をコレクションし、日記で分析する変態詩人ピエール・ルイスとマリーが一度は引き裂かれるが、再び情事を重ねていく内容。ありがちな三角関係を描いている。だが、写真に対する細かい描写が魅力を引き立てる。例えば、ルイスが木箱に写真を入れ、窓際にて完成を待つ場面。何度か木箱を開けて、今か今かと完成を待つ。出来上がった写真は悪魔的魅力を醸し出すものであり、それをチラ見せして観客の好奇心を煽る。クリエイターとしての、9割完成して、残り1割をワクワクしながら待つ感覚が画に収められている。

また、ルイスは写真と紐づけるようにセックス体験を分析する。映像がない時代、全ての行為が一回性を持っている状況下で、いかにして「あの頃」の快感をアーカイブする為に彼の文才、写真の才能が活かされていたといえる。映像と違い、目に映ったもの、肉体で感じたものを文字へ変換する必要がある。そして、それを読んで自分の脳裏で解凍する必要がある。本作は、その繰り返しの果てに、運命の男女が再会し感情が揺さぶられる物語となっているのである。この観点は興味深かった。
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