708

ビクラムの正体 ヨガ、教祖、プレデターの708のレビュー・感想・評価

4.2
あー、キモい。全世界を熱狂させたヨガマスターの正体は、金と女への欲と嘘にまみれた俗の塊でしたということ。神聖さはただの幻影。ネトフリのドキュメンタリーのフォーマットでありがちな、最初はグングン持ち上げて徐々に突き落としていくというあの不憫な流れで語られます。

かつて5年間、1日も休まずにヨガに勤しんでいたことがありますが、どっぷりとヨガをやっていた自分が感じたのが、ヨガというメソッドをチョイスする人は、まともじゃないというか変わり者が多いってこと。もちろん自分を含めてです。当時、何の疑いもなくヨガを続けてましたが、ヨガを通じてヨガ業界だの人間模様だのいろんなものを見ているうちに、自分にはもういらないと感じて、ある日辞めてしまいました。

ヨギやヨギーニ、それもグルになるくらいの人に対して、俗っぽさを手放した聖人みたいな幻想を抱きがちだと思います。僕は以前、有名な男性講師が奥さんにDVをしているという話を2人も聞いたことがあって、レッスンでシャンティな説法みたいなこと並べて、完璧な聖人のような顔をして振る舞っていても、しょせんはそんなもんだろうと妙に納得しちゃいました。

女性たちがたくさん集う環境だからこそ、ビクラムのような貪欲で愚かな男性講師にとっては、女性たちが自分を "オトコ" として慕って崇めているという錯覚が起こるのも予想の範疇。生徒や弟子の女性たちを自分の所有物のように扱って、自分のためのハーレムみたいに勘違いするという気持ち悪さ。セクハラだけじゃなく、レイプだなんてマジあり得ない。

よくよく考えれば、黒のブーメランパンツ一丁の全裸同然な格好で汗まみれになって、女性に体を密着させるレッスンって時点で異様で尋常じゃないと思います。でも、異様な状況だとしても、ヨガで心身の健康を手に入れたいとか、スタジオをオープンしたいと一生懸命に頑張っている人にとっては、異様さを感じながらも止めることはできないと思います。グルに逆らうことなんてできないですから。結局、宗教などの洗脳ってそういうシステムだと思います。ビクラムの被害者の女性たちに「逃げればいいのに」という言葉を平然とぶつけた人もいるようですが、当事者になってみればそんなことできるわけがないと思います。オウム真理教のときもそうだったけど、ヨガって人の心の隙間に入り込みやすいメソッドだなぁと改めて思いました。

ビクラムもビクラムなんだけど、その妻も妻。女性の被害者がいることを知りながら、金に目がくらんで黙認するというのは、ビクラムと同罪だと思います。あと、ビクラムを持ち上げすぎていたマスコミも同罪。ビクラムを崇拝していたはずのセレブたちが、手のひらを返したように皮肉や小馬鹿にしたことを言うシーンが滑稽でした。

ヨガには「オフザマット」という考え方があって、マットの上でアンバランスなアーサナで散々プラクティスした後、マットを降りてからバランスの取れた生き方を実践することが本当のヨガなんだという考え。そういう点では、裁判官への反論するときの落ち着きのない動揺っぷりを見て、ビクラムの生き方はまったくヨガじゃないと思いました。
708

708