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花束みたいな恋をしたのminaminaのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
3.9
大好きな坂本裕ニ脚本作品、見るしかないと久しぶりに劇場へ向かいました。
キャスティングと公開規模の多さによりよくある若者恋愛映画だと思って観に行くと、カウンター喰らうかもしれません。
恋敵もいなければ、どちらかが何らかの秘密をもっているでもなく、大きなトラブルに巻き込まれるなどといったこともなく、ただ男女が出会って別れる。たったこれだけのシンプルなお話をこれだけ真実味を持って繊細に描ける作家はそうはいないと思う。
前半の付き合うまでの高揚感、あんなん絶対最高だよ…終わりが来るなんて信じられないよなぁ、恋愛が始まる瞬間って。
ただ趣味嗜好が同じ人間でも、かなしきかな違う人間なんだよなって、同棲したことない自分でも共感できるような終わりが近いふたりの会話やあの空気、凄かった。

一番辛いのは、むぎくんのアイデンティティが労働に奪われ、むぎくんの根っこまで労働が侵食してしまったこと。
いつかまた仕事に余裕が出てくれば一緒に好きなことを楽しめるってモチベーションで働いていたと思うけども、それが過重労働によって疲弊して余裕がなくなり曇ってしまう。そしてだんだん本来の自分が見えなくなってしまう。
あんなに文学や芸術が好きだった彼が、漫画すら読めずに、パズドラしかできなくなっちゃうんだもん。
働く大人たちがパズドラにはまる理由は簡単で考えなくて良いストレスにならないほどの軽い遊び、であるからなのかも…と心がざわざわした。

日本社会が生んでしまったこの働き方こそが、学生から社会人にステップアップするタイミングで出会ってしまった2人を別れへと追いやってしまった。
ここを描けるのがやっぱり坂本裕二ですね。(社会問題を繊細に切り取って物語のエッセンスにすることが多い)

最後のファミレスシーンも見事で、あれ見せられちゃったらそりゃあね、だめだねって。でもあそこでそのまま関係を続けるってなってもまた違ったのかも、でもいや、もしかしたら…なんて考えたけど、あの頃の二人の輝きと比べちゃったらもう、完敗なんだろうな。

私もあんな出会い方したら好きになるかも…❤︎なんて考えてみましたが、拾った猫飼ってるし、押井守は知ってるし、きのこ帝国は好きだけど、天竺鼠より空気階段だし、アキ・カウリスマキよりロマン・ポランスキーだし、今村夏子より平山夢明だし、ミイラ展より廃墟展だし、、、って考えれば考えるほどロフトプラスワンや新宿ゴールデン街でしか出会える気がしないし、出会えたとて絶対むぎくんみたいなさわやかボーイじゃないだろうし(偏見)、めちゃめちゃ盛り上がりはするけど絶対好きにはならないなと確信して、自分の趣味ではあんな恋愛はできないことを思い知らされ、観終わったあと更にカウンターパンチを勝手に喰らい、自爆しながら帰宅しましたとさ。。。笑

今作が好きな方は絶対坂本さんのドラマを観て欲しいです。二時間じゃないぶん、物語が更に厚く、濃く、深くなっていく作品がほとんどです👍
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