ひよこまめ

ミッドナイトスワンのひよこまめのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.8
映画の中で凪沙が泣きながら言う「どうして私だけこんな身体に・・・」っていう言葉、今の感想はもうそれに尽きる。
どうして身体と意識の性が異なって生まれてきてしまうのか。
選んだわけでもない、誰のせいでもないことで、どうしてあんなに生き辛さを抱えなければいけないのか。
トランスジェンダーだったらなぜ安定した会社勤めはダメなのか。
息子が娘だったらなぜダメなのか。
ありのままの(というのは、女性の風貌の)凪沙にごく自然に「お母さん」と呼びかけたバレエ教師。本人も自覚していないその感覚こそが、万人が持つべき感覚なんだと思う。
そして、そう呼ばれた凪沙の抑えきれない喜び。
切なかった。

郷里でのあの修羅場のシーンは本当に辛かった。
一果の母は、本来だったらお礼を言うべき凪沙をバケモノ呼ばわりする。母は息子の身体の変化に泣きわめくだけ。
凪沙だけが、一果のことを一番に考えて、ためらっていた手術も受け、家族の前にその姿で現れたのに、そして、大人同士が冷静に、子どもにとって何が一番か、と話し合わなければならない時なのに。
自分のことなのに自分で決めることのできない一果が一番辛い。
凪沙にとっても一果にとっても残酷なシーンだった。

性転換手術にまつわる描写は、身体を心に合わせようとすることがどれほど過酷な事かを具体的に見せていると思う。
でも、そこまでしても自分の身体を取り戻したいと思う程のことであるという、その深刻さももっと広く周知理解されるべきことだと思った。

草彅剛が圧巻。
それと、コンクールの最初の課題の踊りを、舞台上の一果とパーティー会場のりんがシンクロして踊るシーンはとても良かった。
まさかこのまま飛び降りちゃうのかな・・・と思ったらやっぱりで。

母親の「この子からバレエを取ったら何もないんです」のセリフとともに、山岸涼子の漫画「テレプシコーラ」の千花をオマージュ、あるいはイメージしてるのかなと。
そう思うと、一果もテレプシコーラの久美ちゃんをちょっと彷彿させるキャラだったな。

ただ、そのりんの飛び降り(というか死)、凪沙の死、一果が海に入って行く描写、など、ちょっと演出的に行き過ぎと感じた部分もあり、スコアは少し低くなりました。
そこが監督の言う「エンタメとして作った」ってことなんだろうけど、エンタメをそこまで意識しなくても良かったんじゃないかな、という-1.2。
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