だいき

アメリカの息子のだいきのレビュー・感想・評価

アメリカの息子(2019年製作の映画)
2.7
息子に何が起こったの?

本作は映画だが、少し普通の一般的な映画の感覚とは違う。
基になっているのが「ブロードウェイ」であり、演劇自体を映画化することは別に珍しくもなんともないのだが、問題なのはその内容。
極めて限られたステージと登場人物だけで構成されるディベートを喚起させるような会話合戦が主軸。
こういうコントロバーシャルなメッセージ性を訴えることに特化して、役者の演技力一発で成り立たせる演劇スタイルはよくあるが、それを映像作品化したのが本作。
映像作品化といっても、中身は同じであり、映画的なダイナミックなカメラワークもなく、ほぼ舞台は一つの部屋に限定され、登場人物も4人程度。
とにかくミニマムな作品である。

また、アメリカの人種問題(特に白人による黒人差別)が主題となっており、約90分そのことが休みなしで会話劇として突きつけられる。
そのため、我々日本人は非常に難易度の高い作品になっていることは否定できない。
間違いなく、ある程度の人種問題に関するリテラシー(白人警官による黒人への発砲事件など)が必須知識となってくるので、それが分からないと作中の登場人物が何故口論しているのかも分からない。
さらに、ここに翻訳の難しさという別の難問も生じる(実際かなり苦肉の策で和訳している部分も見えた)。

テーマ性は崇高なものであり、社会的意義の深いものでもあるのは異論はない。
ただ、それが上手く機能しているかというと微妙。
本作はアメリカ国内でも肯定的に受け止められておらず、寧ろネガティブなレビューの方が多い。
その理由は複数あるが、やはりブロードウェイの映像作品化として上手くいってないのではないかという指摘が大きい。
そもそもこんな映像作品化は必要だったのか。
映画にするなら映画としての魅力が必要であり、ただちょっと映像化されても「だから何?」という感情しか芽生えてこない。
本来であれば非常にセンシティブな問題なのに、これでは思慮深い洞察どころか、ニュアンスさも陳腐になってしまった感じさえする。
ブロードウェイを見に行くのは大変だが、Netflixなら気軽にいつでもどこでも観れるというところが唯一の利点ではないだろうか。
だいき

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