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子供はわかってあげないのsekiのレビュー・感想・評価

子供はわかってあげない(2020年製作の映画)
4.5
ファーストシーンから「ん?!どうやらいつもの沖田監督作品ではないみたい…」と思いながら観ましたが、本当にその通りな内容だった。帰宅して劇場パンフレットを見て首がもげそうになるほど共感した「ニュー沖田」というワード。とにかく本作は、今まで観たことがない沖田作品だった。水泳シーンを水中から捉えたり、美波の目線になってみたり、アニメーション制作をしたり。そしてなんといってもラストシーンは正真正銘の「ニュー沖田」そのもの。高校生の時からずっと片想いして鑑賞し続けている沖田作品で、初めて照れた。『横道世之介』の雪のあのシーンとはまた一味違った、若さと甘酸っぱさと少しのキュンがあって、南極観測隊の男たちや木こりのおっちゃん、女学校のようなおばちゃんたちを描いてきた沖田監督とはまったく違う側面を観てしまったからこそ、照れたのかもしれない。

「ニュー沖田」連発の中でも、今回もしっかりと食事シーンを魅せてくれていた。友充との食事シーンはどれも素晴らしかったけど、やっぱりかき氷のシーンはちゃんと血の繋がった親子として何か通じ合った美波と友充が描かれていて好きだった。登場人物たちの関係性を食事で描く沖田監督の手腕が今回も光ってました。うどんをこねて美波を待っている清と、美波とうどんを食べている友充の対比なんか、ちょっとだけ切ない気持ちになってしまったり。

美波の境遇を特別視しない、重く捉えない、ありきたりな日常の中の非日常感の描き方がこの映画の凄みだと思う。この手の映画はどうしても観客が主人公の心情を重く捉えて特別な存在にしてしまいがち。でも沖田作品ならではの台詞とお芝居、その間合いで、美波を特別な子=孤独な子にしていない。美波が美波というただの高校生としてスクリーンでひと夏の大冒険を繰り広げていて、なんだかとても優しい映画だなと思った。

あと、最上級の褒め言葉として、千葉雄大ってこんな感じだった…?と言いたくなった。猛烈な沖田作品信者なので『モヒカン、故郷に帰る』の千葉くんがどうしても沖田組の雰囲気に合ってない気がしてて、今回鑑賞前の期待値を勝手に下げてしまっていたことを謝りたい。そのくらい千葉雄大が輝いてた。飾らず、感じたまま素直なお芝居をしている感じがして、またぜひ近いうちに沖田組の千葉雄大が観たいと思った。

ここ最近、お年寄りを描きがちだった沖田監督が青春キラキラを描くとこうなるのか〜!と、こういう原作だからこその沖田監督が観れた気がして、これはまた沖田監督の代表作が誕生したのかもしれないですね…もう次回作が楽しみです。早く観たい。
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