おかだ

眉村ちあきのすべて(仮)のおかだのレビュー・感想・評価

眉村ちあきのすべて(仮)(2019年製作の映画)
4.4
今年1番の衝撃、天才による純セルフプロモーション映画


えらい作品だったと思います。
MOOSIC LAB2019年の出品作「眉村ちあきのすべて(仮)」。

MOOSIC LABとは、音楽×映画という題材のもとに数々の作品が出品される賞レース。
過去にも2016年やったかの出品作で、ふぇのたすというエレクトロポップユニットをフィーチャーした「おんなのこきらい」という作品を観たことがあり、あれもかなり良かったなとか思いつつ。


そして今作は、天才アイドル眉村ちあきのドキュメンタリー映画。
これがとんでもない曲者でした。

まず眉村ちあきを知らなかったのですが。
彼女の正体は歌にダンス、作詞作曲だけでなく編曲やトラックメーカー、はてはイベント企画までこなす上に自身で立ち上げた株式会社「会社じゃないもん」の代表取締役社長を務めるという天才。マルチタスク妖怪。

正統派ドキュメンタリー映画っぽくスタートする冒頭では、彼女が自宅で楽曲制作をする場面が関係者インタビューと並行して流される。
めちゃくちゃな歌詞と単調なトラックで、大丈夫かこれ。と思っていたが、出来上がった曲がめちゃくちゃにカッコいい。
もろアイドルの立ち振る舞いでバリバリにヒップホップな楽曲を作りよる。

かと思えばユーモアや企画力もずば抜けていて、特にライブの物販で自社の株券を販売するという面白すぎる試みには爆笑しました。


そしてここからこのドキュメンタリー映画は様相を変え始める。
彼女のあまりの多才ぶりと、楽曲制作の傍ら年間400本以上のライブをこなすとんでもない体力に、「本当に1人の人間なのか?」という当然のコメントがインタビューで引き出せれる。

それを受けて、実は彼女は地下都市で培養された眉村ちあきのクローン軍団によって構成されているのだというトンデモSF劇に突入する。

この地下都市ってのがモロにミニチュアでエヴァンゲリオンの世界観であったり、終盤ではお約束のクローン反乱で思いっきり「ブレードランナー」をやってみたりと、しっちゃかめっちゃな展開を見せる。

その一方で地上パートでは大真面目に眉村ちあきの大忙しライブ生活がインサートされる。


この手があったかのひとこと。
眉村ちあきという超絶マルチタレントのプロモーションとしてこれ以上ない仕上がり。

もちろん地下空間のミニチュアに巨大眉村の戦闘パート(何でアイドルのドキュメンタリーに戦闘パートがあるんや)、オリジナル眉村の熱血スポ根パート、いずれも映像自体はしっかりとチープ。

しかしその反面、割と作りは手堅い。
序盤のクローン有識者のコメントが前振りとなるラストの巨大化であったりとか、小粋なタイトル伏線回収、それから鏡を多用したクローンものの定石もちゃっかり抑えていたりする。


この散らかりまくったジャンルの多様性こそが彼女の真髄であるというプロモーション手法と、背後で流れる彼女の楽曲のクオリティの高さや、しれっと質の高いライブ映像まで織り交ぜてきて、ここまで自分の売り方を熟知している彼女が恐ろしくなる。

そのほか、地上空間の出口がすべて「ポプラ」の店舗であるとか、クローンのオリジナル眉村がシャイなキャラクターであるとか、図々しい小ネタの数々も楽しい。
割りに本格的なサイバーパンクSFを展開しながらの雑コラみたいなラストの戦闘パートもやはり笑えるし。


凄かったなしかし。
ほんで散々言うたけど、最後に改めて楽曲がとにかくカッコいいのよ。
特に「東京留守番電話ップ」とか、トラックもかっこいいししっかりヒップホップ。

どう考えてもアイドルの枠に収まらないと思う反面、この歳で完全に自身の見せ方を熟知している点では誰よりもアイドルしている。

えらいもの観たな。今後も動向を注視していきたいと思いました。
おかだ

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