吉太郎

バビロンの吉太郎のレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
4.1
映画史へのファンキーな愛、エンターテイメントへの尊敬。

スポットライトを一生のうちに一度浴びる側の人間か、はたまた浴びる、という概念の基にはいない側の人間か。
前者は一度この世に覚えられると漏れなく、時代に忘れられていき、その影は光が強ければ強いほどに濃い。後者は、誰にも知られることなく一生をセレブの家の下の暗闇で過ごし、しかし代償として確実に生き残っていく。
『売れなくなった理由は、ないわ』ゴシップ屋のおばちゃんが言った。意味なんてない、人そのものが変わったのではない、奇しくも、世の中の得体の知れない何かが変わっていく。

時代への未練に対しての捉え方が本当にくっきりわかれてた。ネリーとジャック側と、シドニー、フェイジュとマニー側。
どちらが正解とかはない、ジャックの残された背中、あの自分でなければ愛せない、そのジャックを見るフェイジュの目。でも私は行くわ、と。あの時あの部屋で話したネリーの顔が最後に闇に消えて行くメリーの背中に映るようで、その背中があまりに美しかった。

確かなことは、
映画は救済、私たち労働者の拠り所、子ども達の夢。正直すがりついている、あの時あの映画であの俳優が演じたあいつに、あのシーンに。それが映画だ。映画がなければ生きられない。銀幕の上では、歌って、踊って、酒を飲んで、コカインやって美女とファックし、宇宙にもいける、ヒーローにもなれる、いろんな人の暮らしが見える、何者にだってなれる、望むように生きられる、こんなクソみたいな世界を一瞬だけでも忘れられる。撮ってくれ、フィルムがある限り、小さな子供達がかつて光を浴びたスターを、時代を、掘り起こし、その目に映すわよ。
吉太郎

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