アリュール

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のアリュールのレビュー・感想・評価

4.7
まず、なされた討論の理解を深めようという授業のようなドキュメンタリーかといえばそうでもありません。予告ではエンタメ色が強調されておりましたが本編も予告通りの印象を受ける内容です。予告を観てわくわくした気持ちになったなら観に行って損はないですし、エンタメ仕立てなおかげで私もそうでしたが、学生運動て結局何してたの?レベルの人でも、非常に満足感を得られる映画です。もちろん世代ど真ん中の方は当時の記憶と重ねながらご覧になればそれはもう血がたぎる青春映画に映ること請け合いです。

このドキュメンタリーのテーマは熱量と言葉の力と敬意です。なので当時を知らない世代(私もですが)の皆さんにとって討論内容は難解かもしれませんが、当時の学生は自分が学生の時と比べてどのぐらい考えている事が違うのかとか、対決の最中の感情の往来とか、流麗な言葉遣いなど感じたものをシンプルに受け止めながら観ればよいかと思います。また、劇中単語の注釈や解説が入りますので討論の内容もちんぷんかんぷんのまま終わるということもないでしょう。

今日が公開初日ですが、内容的に考えて劇場は空いてるだろうと予想して行きましたが全くもってそんなことはありませんでした。ちょうど学生運動の時代をリアルタイムで見てきたであろうお爺様方でいっぱいでした。

内容はまず全共闘とは何か、三島由紀夫とは何かの紹介から入ります。全共闘の紹介では過激な暴動映像が使われます。そんなヤバイ連中1000人が集まる講堂へ単独で乗り込んだ三島由紀夫。
どんな奴らなのかと観てる私も緊張しました。

しかし、予想に反して和やかな雰囲気で始まります。三島由紀夫が冗談を言えば笑いが起きるし、司会の青年は思わず敵である三島を先生と呼んでしまうイージーミス。なんだ、和やかだったんじゃないか良かったね。





「だからその自然ていうのがわからねえんだよ。」






和んだ空気の中いきなり刀を抜き一気に対決モードに引き戻す青年が登場します。赤ちゃんをあやしながら…。

一体何なんだこいつは…!明らかに只者ではない空気をまとった青年、芥さんです。全共闘きっての論客と紹介されています。討論会開始時の緊張感から和んだ雰囲気に移行し、平和的な話し合い会になりかけたところ、芥さんの登場で一変。学生達の憎悪を纏ったエネルギーが一気に膨れ上がり今にも爆発しそうなひりついた雰囲気に。ここからの空気感は観ている私も脳汁がドバドバ出っぱなし。

三島vs芥は討論内容が本当に難解ですがどちらも会話が成立しているのを観て次元の違う頭の良さを感じます。また敵同士でありつつも互いの思想を確かめ合いながら決して罵倒ではない敬意を持った討論がなされている光景は知的で非常に美しいものでした。

思想や道が違っていても、日本を良くしたいという共通の志のもと闘っていた彼らがいたエネルギッシュな時代の貴重な時間を体感できる上、エンタメ映画として十分面白い。言ってる事はわからないけど脳汁は凄く出る。何というかロックな映画でした。

映画が終わって明るくなると最初ただのお爺様方だったのがそれぞれが戦士に見えてきて敬意が湧いてきました。「あなた達も闘ってたんですか?」と話かけたくなりますよ?いやほんとに。

ちょうど父親が世代なので当時の話を聞いてみようと思います。