mai

MOTHER マザーのmaiのレビュー・感想・評価

MOTHER マザー(2020年製作の映画)
3.8
この映画をちょっとドキドキしながら見たのですが(胸糞だと聞いていたので、実際どうなのかなと)、観てよかった…という表現もおかしいですけど、映画としての完成度がとにかく高くって飲み物飲むのも忘れるくらい飲み込まれてました。

この問題って前からたくさん取り扱われてて、母親の目線で映画を描くのか、親子から一歩離れた立場の目線で描くのか、もしくは妹の目線で描き希望を少し見出して終わらせるか…この映画に関しては「当事者本人」という一番辛くって不条理さの露呈する目線だからこそ、もうとにかく観ていて辛くなります。

彼にとっては母親が全てで、母親以外に頼れるものも愛せるものもなかったわけです。
だって生まれてから彼にとってはいつでも母親がそばにいて、逆に言えば母親しかいなかった。
本当なら、社会と関わることで彼は他人との関係性を知り、親子以外の友人関係や上下関係などの複雑な関係を築いていくはずなのに、彼には幼い頃特有の「母親が一番」しか与えられなかった。だからこそ、ラストの「母親が好きじゃダメなんですかね」というセリフがサラッと出てくるんだろうなと思いました。
そのセリフは、母親への愛を示すものではなく、愛を示せる対象が母親しか与えられなかったという事実だと思います。妹のフユカへの家族愛とはまた違うんですよね…彼は妹を自分とは切り離して考えることはできるけど、母親と自分とは切り離して考えられないんですよね…そしてそれを支配だとは思っていない。そこがこの問題の一番の根っこですよね、当事者はある程度自分の不条理な状況に不必要な納得をしているわけですから。

長澤まさみが主演なのは間違い無いんですけど、トップ女優でもある長澤まさみを食ってる演技をしてた奥平さんは凄い俳優になりそうだなと思いました。
抑えたような演技が真に迫ってて、ただ静かにやり過ごす…っていうなんちゃってな演技を軽く超えてました。その静けさの中に、怒りやもどかしさや母親への愛など色んな感情がないまぜになったものを抱えてるのが伝わってきて、まるで乗り移ってるかのようです。
彼のテレビ出演の様子があまりにも堂々としてたので「あ、苦手なタイプかも…」と思ってしまったのですが、そんな自分を殴りたいくらいです。笑
もちろん彼目線の映画だっていうのは重々承知で言いますが、この映画は長澤まさみの映画ではなく奥平大兼の映画でした。
mai

mai