塚森

花のあとさき ムツばあさんの歩いた道の塚森のレビュー・感想・評価

4.4
秩父の山奥の集落で、耕すことのなくなった畑に花を植えていく夫婦を追ったドキュメンタリー。

花が咲き誇る景色はきれいで、おばあちゃんの笑顔がかわいい。そこで暮らすひとたちの手はみな厚くて立派だ。

映画を観ていて、逆説的に「自己責任」という言葉を思った。
「いつか人が山に戻ってきた時、花が咲いていたらどんなに嬉しかろう」そう語っては花や草木を植え、植えた紅葉が立派になれば、そこを通るひとのためにテーブルと椅子を設ける。
他者を思いやり、自分たちが亡くなったあと、いつか集落がなくなったあとの山を思って暮らすその姿は、聖人か何かと見紛うけれど、きっと当人たちにとってはそれが当たり前の営みなのだ。

登場する集落の住人は、もう誰もいない。今まさしく、変化した生活様式の果てに、ひとつの時代が幕を閉じているのだと気付かされると共に、私たちの都市部でのこの暮らしの是非を問われるようでもあった。
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