ラウぺ

ドント・ルック・アップのラウぺのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・アップ(2021年製作の映画)
4.2
大学院生のケイト(ジェニファー・ローレンス)は天文台で定期的な星の観察をしているとき未知の彗星があることに気づく。指導教官のミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)が軌道計算をしてみると、その彗星は殆ど100%近い確率で地球への衝突コースを進んでいることが分かる・・・

彗星の地球衝突をテーマにしている物語ですが、ガチなSFというよりは人類滅亡の危機という天変地異の情報に遭遇した現代人の右往左往を描くコメディ。
彗星発見のお祭り騒ぎからミンディ教授が軌道計算ののち、地球との距離が0と分かる場面の緊迫感はコメディ要素皆無。
彼らがNASAのオグルソープ博士に連絡し、博士の所属部署「惑星防衛調整局」(Planetary Defense Coordination Office=PDCO)がロゴつきで紹介される場面で、これは紛れもなくアダム・マッケイ監督の作品であることが分かります。

彼らは急ぎオルレアン大統領(メリル・ストリープ)に面会を申し入れるが・・・
そこから先はもう観てのお楽しみ。
選挙のことで頭がいっぱいの大統領はコトの深刻さを本当に理解しているのか?
マスコミにリークしようとしたミンディとケイトは情報番組に出演して世間に訴えようとする。
彗星の衝突という事態の深刻さがまったく世間に受け入れられないジレンマがこの物語のメインテーマなのか、と思うとそうではなくて、彗星の衝突を巨大ビジネスのチャンスと捉える巨大IT企業のCEO(マーク・ライランス)の計画などが絡んで物語は予想もしない方向に。

その中で科学者が科学的根拠をもとに事実を伝えようとしているのに、それを信じたくない人々が事実を否定することや、選挙対策のみで政策決定をしてしまう政治家の暗愚、人類の存続に関わる事業を特定の支持者のみで固め、科学者の査読なしに計画を推進しようとする組織の硬直ぶり、反対する科学者の意見に耳を傾けることなく遠ざける国家事業の危うさ(どこかの国でも似たような事例があったような・・・)、視聴率やSNSの反応のみで番組の重みづけが決定されてしまうTV局の安直さ・・・等々
Qアノンなどのフェイクニュースの拡散者、知りたくない事実に目を背け、自分たちの都合のよい“事実”だけに目を向けるポピュリストたちの跳梁といった、現代のというかアメリカの病理ともいうべき現実に対する痛烈な風刺がこの作品のテーマとなっているのです。

相次ぐ問題と確実に衝突に向かって地球に接近してくる彗星、物語の推移の不透明さが重なってクライマックスになだれ込む緊張感でスクリーンに前のめりになって見入ることになるのでした。

主役級の俳優をこれでもかと投入し、質の高いエンターテインメントを提供する底力はやはりNetflixの勢いがそのまま反映されていることの証というべきでしょう。
それでも最近のNetflixは劇場公開を決めた作品は配信よりも若干劇場公開が早い、というある種の配慮も見られるのが興味深いところ。
映画はやはり劇場で観てこそ、と思う私などの希望としては、劇場公開される作品の数がもっと増えれば更に良いのですが。

ちなみに145分と告知されていた本作ですが、公開された本編の長さは139分と6分ほど短くなっています。
とはいえ、それでもコメディとしては異例とも思える長さには違いないのですが、その長さに充分値する充実した作品でありました。
また、本作にはエンディングの最後まで観ないと彗星の直撃を食らう呪いが掛けられているので、良い子は劇場の電気が明るくなるまで、席を立たないように。
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