きさらぎ

ナイト・ウォッチャーのきさらぎのネタバレレビュー・内容・結末

ナイト・ウォッチャー(2020年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

見終わったあとで、色々と違和感が残ることに気づいたひとは、物事を感情でなく、論理で冷静に見ることができる人ではないだろうかと思う。

主人公がアスペルガー症候群だということを十分に理解し(その特性を含めて)、劇中に出てくるセリフにあるように「彼は有能だ」ということを念頭においておかないと、この作品は単なる陳腐なサスペンス、あるいは障がい者の真摯な想いに最後には声援を送りたくもなるヒューマンドラマにしか見えないだろう。

日本の映画評論家でも、そうした表層しか見ずに低評価をしていた方がいて、「評論家に向いてないんじゃないか」と苦笑したが、やはり障がい者という主人公の属性によって「障がいがあるのだから、並の人間より劣っているはず」というまったくの誤解を「おそらく意図的に」観る側へ一種のトリック的に植え付けてしまっているので、そういう人が多く出るのも当然かもしれない。

本国の映画評論家の間でも評価は芳しくなかったようで、日本だけの話ではないようだから、上記の目眩しにハマってこの作品が凡庸だと感じた人も決して自分を卑下する必要はない。

主人公が障がい者だということはいったん忘れ、非常識な面こそあるが、ある面では健常者よりもズバ抜けて能力の高い人間であることを頭に置いて、すべてを疑って見ていけば、合点のいかない点が浮かび上がり、正解への端緒に着けるだろう。

私自身は、音楽好きでもあるので、最初からサウンドトラックにも違和感を感じていた。と言うのも、ひとつひとつのトラックは良いのに、なぜかシーンの雰囲気とにズレがあり、いまひとつしっくり来ずにクビを傾げることしきりだったからだ。しかし、一度見終わったあとに製作者の仕掛けにハマりかけていた自分に気づき、もう一度見直した時にはトラックはしっかりとマッチしたので、これも意図的な演出だったのだと悟った。

最後にもう一度言うが、「主人公は有能な人間」である。劇中でも、彼のいくつかの「凡ミス」の画に対して音声では「彼は有能な人間ー」という周囲の人間の高い評価の台詞を念押し的に被せてきているのも、親切な示唆、ほのめかし、だろう。

一度っきりしか見ないか、あるいは違和感を覚え、「何か大事なことを見逃しているんじゃないか」と自分の目を疑って、もう一度見直してみるか。

そんな映画だ。
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