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Swallow/スワロウのmatsushiのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
4.0
衣装や小物、セットがパステルカラーから無彩色やダスティーカラーへと変わるのは、主人公が背伸びして小綺麗な偽りの内面性を装っていた序盤から、暗い過去を持ち、いい意味で薄汚く人間的なハンターの内面性の解放をとても視覚的に表現している。所々出てくる"赤"もとても印象的。それに対して夫が常に"青"を纏っているのも興味深い。

あらゆるシーンで使われる画面上部(ヘッドルーム)が大きく空いている構図がハンターの居場所の無さと空虚さをひしひしと伝える。他にも大半のシーンが構図の美しいフィックス(固定カメラ)で撮られているが、ハンターが意を決した時や、夫が声を荒げるところなど心理的乱れの部分でのハンドヘルド(手持ちカメラ)への変化が見る側の感情さえも大きく乱してくる。

異物を並べるときの恍惚としたハンターの表情から察するに、排泄物に紛れる異物はハンターにとっては一種の自分の子供のようなものだったのかな…
異物を飲みことにある種の達成感を覚えて、それにより確実な自信と安心を身につける。形は違えど、本質的に全ての人々が持っている普遍的な欲求の形であるように思える。
途中で登場する夫の同僚のように素直に寂しさを伝えられていたらハンターは違う人生を歩んでいたのかな。

ハンター役のヘイリー・ベネットの表情が最高。姑に夫がロングの方が好きと言われるシーンや、話を遮られるシーンでの表情の変化は一級品。

チューブのソースをカットアウェイで汚く撮ったり、姑が作る野菜スムージーがゲロっぽいのは本作のキーワードでもある「排泄」のモチーフであるように感じる。

ルアイの優しさには心から感動した。戦争で本当の悲しみを知っているからこそハンター上手く表現し得ない悲しみを分かることができるんだろうな。自分のモットーというか好きな言葉で「真の悲しみを知っている人間は強い」というものがあるんだけど、まさにそれを体現してくれたキャラクター。「ここは安全だ」というセリフでなんだかこっちまで涙が出てきた…

と言ったように色彩や構図、そしてモチーフを使って巧みにそしてわかりやすく登場人物の心理を表現した美しくも儚い作品だった。

にしても我々人間は何のためにいつまでも"裕福"を欲するんだろうね…
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