あずき最中

スカイ・クロラ The Sky Crawlersのあずき最中のレビュー・感想・評価

3.2
原作未読。
主人公たち・キルドレが行う戦争は、いわゆるゲーム。退屈をした一般人が平和ボケして、平和のありがたみ(ひいては戦争の悲惨さ)を忘れないために仕組まれたものにすぎない。
しかも、どちらかが優勢になった時点で、「ティーチャー」と呼ばれる最強のパイロットが劣勢側に現れることで、永遠にシーソーゲームを続けている......というのが何ともうまくできているな~と思った。

この手のバトルもの、しかも「老いることのない少年少女が戦争の道具にされる」というと残酷さを感じてしまうものだが、この作品では、そういった感傷めいたことはほとんど出てこない。

主人公のひとりである草薙水素(スイト)は、むしろそういった哀れみこそがキルドレを侮辱していると憤る。終始冷静な彼女が、声が裏返ってしまうほどに感情を爆発させるこのシーンは、劇中の一般人だけでなく、この作品に対して「戦う少年少女の痛々しいドラマ」を期待している観客自身にもNOを突きつけてくるような力強さを感じさせる。

また、キルドレたちもエースパイロットの三矢を除いては、戦争や自分自身に対して基本的にドライ。
そのせいか、観客である私自身も、戦闘シーンをふしぎなほど冷静に見ていて、キルドレとシンクロしているような気持ちになったほど。
こういう気持ちでバトルものを見るのははじめてだった。

しかし、ラスト45分あたりから、草薙とかつてのエース・ジンロウ、主人公の函南優一(カンナミ)をめぐって、物語に動きが生まれてくる。

カンナミは朴訥とした少年で、キルドレの中でも感情に乏しいように見えるが、その実、とても寛容なキャラクターだと感じた。

おそらく、一般人、キルドレを問わず、たいていの人は、自分の人生になにかしらのドラマが起きることを期待している。

たとえば、同僚の土岐野は女性と遊び、三矢は自己の存在に悩み、草薙は戦いを生き抜き、子を持ったことで、他人の人生に干渉することを覚えてしまう。
さらに、草薙はその結果、ジンロウの人生を変える行動をとってしまい、『スカイ・クロラ』中では自分の人生に対しても破滅願望を持っている。

けれど、カンナミはそれらの人物を見ても、風のようにかわしてきた。
そして、クライマックスではそんなカンナミの心情がモノローグを通じて明らかになる。

「いつも通る道でも違う道を通ることができる。いつも通る道だからって、同じ景色とは限らない。それだけではいけないのか? それだけだからいけないのか?」

思えば、基地に到着したときも「夕方ぐらいに着くと思っていた」という草薙に対して、「太陽が眩しかったから(早く来た)」と返したり、カンナミには自分の行動を自然に変えている描写がある。
「生と死」をはじめとする、大きなドラマや転機がなくとも、退屈な日常にささやかな変化は作り出せる。
そのことを彼の行動がきちんと作中で証明しているのは巧みな演出だと思う。

大きなドラマに翻弄されることなく、それらの小さな変化を連ねていくことが、それぞれの人生の醍醐味なのではないかと思わされたし、繰り返される「それだけではいけないのか」の裏には、「それだけでいいんだ」というカンナミの意志がにじんでいて、そこに共感をおぼえた。

しかし、そう思う彼に対して、草薙は「死」という大きな変化を期待していて、両者に静かな対立を起こす。
この、どうにも解消できないままならなさを打ち破ろうとした結果がラストのバトルに繋がっていったのだろう。

正直、「こんなバトルをするなんてカンナミらしくないな」とも感じたが、エンドロール後の草薙の表情にもささやかな変化を見て、きっとカンナミが生きた意味はここにあったんだろうと感じさせられた。

作中では、キルドレの行動を中心に、「繰り返される退屈な日常」が強調される。それに対して、登場人物も「どこかで見たような...」とデジャヴを感じる。でも、繰り返される場面は全てが同じではなく、場所が違ったり、行動が微妙に違ったり、まったくそのまま繰り返されているわけではない。
その点は、見返す楽しみにもつながるだろうし、カンナミのいう「いつも~」の台詞の意味を知る手がかりになるはず。

音響に関してはエンジン音などにびっくりしながら視聴したが、実際に聞いたらあれぐらい爆音なんだろうか。
草薙の声は違和感を覚える箇所がちょこちょこあったけれど、大人になろうと過度に感情を抑えた結果、棒読み(かつ時々イントネーションが外れる)っぽい声色になるのかと思えば納得がいかなくもない。
戦闘シーンについてはまったく知識がないので、ティーチャーの動き、三矢の言った通りだなあとか思うぐらいで、全体的には良い画だなと思った。

原作とは違うラストということで、原作も読んでみたい。
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