エマ

護られなかった者たちへのエマのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.9
東北大震災から10年だった2021年。
この年はコロナウイルスの感染拡大が大きかった中、「今語る東北大震災」がテーマの作品が多かったです。例えば芥川賞の候補には4作中(?)2作は大震災に関連した作品でした(「氷柱の声」「貝に続く場所にて」)。映画だと「糸」も2021年だったのかな?

この作品は大震災のもうひとつの側面を見せてくれた気がします。
とても複雑で、大きい障害。何に対して怒ることも出来ない。
「護られなかった者たち」は、本作の登場人物達からすると本当は「護りたかった、でも護ることが出来なかった者たち」で、これに関しては泣く事さえ出来ない。「国が悪い・政治が悪い」という意見でさえもミクロな視点になってしまいそうな始末。
辛かった、3人が幸せそうにしているところ、大人になってから一緒に生きていこうと話すところは温かくて救いだった。

先程も紹介した2021年芥川賞受賞候補の2作ですが、「氷柱の声」も「貝に続く場所にて」も(後者は芥川賞受賞)、主人公は「地震の被害を甚大に受けた当事者ではない」ことが共通しています。
10年経った今でも3.11を忘れられない人は沢山います。忘れたくても忘れられない人が沢山います。
そして2011.3.11から、日本はどこか「何かを失ったが、何を失ったかは分からない」ような感覚を覚えているのではないでしょうか?
「貝に続く場所にて」で主人公は、3.11で亡くなったゼミの友人と街で待ち合わせをする描写から始まります(なんとも不思議な設定です)。ですがその友人の死体はまだ見つかっていません。実際今でも死体が見つかっていない人は多いそうです。
大事な人の死因が分からないって、歯の奥にものが詰まっているようなもどかしさがあるのではないでしょうか?距離を感じるような。目の前にあるのにずっと手が届かないような。

利根の最後の「黄色の上着の男の子」の話。それに対して「ありがとう」と言ったのは、そういったもどかしさが少しでも晴れた気がしたからでしょうか。
エマ

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