S

あのこは貴族のSのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.5
 大変に抑制された細やかな演出が東京の、主として女性を取り巻く心理的そして社会的環境を描き、そうして情動的な機微のリズムにだんだんと引きずりこまれていく。
 「階層」というのが本作のテーマの一つだが、各階層ごとに異なって見える東京の街が微妙に折り重なるところをショット一つで表現している点が最大の魅力だと思う。たとえば、正月に幸一郎から送られてきた写真の東京タワーと起業直前に華子を招いた美紀の自宅から見える風景の東京タワーとが、セリフやモンタージュによって殊更に強調されずにさりげなく反復される。東京タワーとしては同一なのに、二つの「東京タワー」はそれぞれ異なる意味内容を持って画面に現れてくる。その決定的な差異--過ぎ去る時間が生んだ出会いと別れの重なり--がとても切ない。
 そうした無数の出会いと別れのリズムが作る時間の堆積こそが都市を特徴づけている(逆ではない)。つまり都市とは媒介なのである。まさに東京ここにあり。
S

S