かもいぬ校正

海辺の彼女たちのかもいぬ校正のレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
4.4
首都圏にいたベトナム人技能実習生が、勤務先から逃げて冬の海辺の町へと働きにいく。彼女たちの日常を坦々と描くことにより透けて見えるものは…。


誠実な映画だった。
派手な出会いがあるわけではなく、現実を「えぐる」演出でもない。
どんでん返しもなく、観客の予想を裏切る展開というほどでもない。
露悪的なえげつない描写もなく、記号的に対立者としての日本人は登場しない。
ベトナム人や技能実習生のアバウトな構造はわかっているので意外性はない。

ここで伝わってくるのは彼女たちの現実の体験。それを私たちは観て、想像し、自らの頭で考える。
彼らの生きる先に、今、私たちが生きている世界がつながっている。なのに、私たちは彼らとの間に線引きしている。同じ土地にいるのに。


家族が生きるために、若い女性が青春の一時期をこんなふうに心と体をすり減らしている。
困難も苦労も家族でなんとかしなさいよ、という「自助」を、彼女も背負っている。

低い待遇で人を使おうと思うから、外国人に来てもらうわけだ。中国人が来なくなったらベトナム人やフィリピン人…。国を替えて同じことが続く。次は?
人間性をなくし、命を軽視し、いつまで私たちはそんなことをやっているのか。


ラスト近くになって、主人公の孤独は深いものになっていくのだけど、私が思うのは
「あなたの選択は、あなたひとりが背負うものではないんだよ」
ということ。

誠実な「思い」のある映画だった。