ブラックユーモアホフマン

海辺の彼女たちのブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
4.0
まずはあったかいものを食べて、寝よう。それが生命に一番大事だということがよく分かる。

歩く映画、あと病院に行く映画。
は、個人的な経験が思い出されて辛くもなるのだけど、それはつまり主人公たちの身体的な辛さが分かって、肉体的共感とでも言うべき映画体験ができるので、好きにもなってしまう。

後半の急激なペースダウンが特徴的。吹き荒ぶ風と、人と社会の”冷たさ”にぐっと耐え、一人静かに涙を流し、これからのことを考える彼女の時間にじっと寄り添う。とても印象的で狙いは成功していると思うのだけど、しかしドラマとしてはあまりに展開が遅く、弱い。この内容を45分にまとめて、残り40分で続きを描くこともできたとは思う。が、そうしなかった判断も分かる。脚本の映画ではない、ということか。

ドキュメンタリーではなく、フィクションとして、こういった題材を選び、作る意味についても、考える。

真っ白の雪景色が美しく、厳しい。映画として画面は美しく、同時に彼女たちの身体的なしんどさに拍車もかけている。寒かろうなぁ……キッツイよなぁ……。

これが本当の意味で今の日本映画だ、と思う。これが今の日本だから。我々が生きている、この。

【一番好きなシーン】
二人がお互いを励まし合う声を壁一枚隔てて聞きながら、一人でひっそり涙を流す。この一枚の壁こそが、詩情というものだなと思ったりした。