エマ

ノマドランドのエマのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.0
平均レビューが3.8に収まっていることに安堵した。
なぜなら、ある時代における素晴らしい作品というものはその時代を生きる人にとって、時に不快でないといけないからである。
この作品の素晴らしさは、現代に染み付いてもう取れないと言っても過言でないイデオロギーに対する挑戦者たちの悲哀を描き、作品としてもポピュラーな時間モデルをあえて避けているように思えるところである。
分かりやすく以下に描く。
本作において印象的なのは、「自然との繋がり」のシーンが非常に多い、というよりもほぼそういったシーンで占められている。資本主義社会からの脱却によって人は美しい自然を取り戻すということだ。
しかし、そういったコミュニティに属する人達はどこか哀愁を漂わせていて、現代への執着を捨てきれていないように感じる。
「さようなら」が無い人同士における素晴らしさを述べているシーンもあるが、それは「別れ」のトラウマを克服できずにいる弱さに囚われているようにも見えてしまう。
満たされた生活に満たされることの出来ない今現代特有のメランコリーにもがく人々の人生を見て取れる。

そして、作品としての素晴らしさとしては、音楽と物語の緩急の少なさである。
とても印象的だったのは、ピアノを聴くシーンである。音楽が少ないこの作品において、最も存在感を示した音楽は、ラジオでも電子音楽でもなく「人が生で演奏する音楽」である。
便利になりすぎたことによって芸術としての素晴らしさを描きずらくなっている音楽を、本作ではプロでもない二人が弾く演奏の美しさで何かを訴えてくれているような気がした。
最後の終わり方も、ストーリー全体としても大きなピークを迎えることはなく、「人生におけるピーク性」を再構築してくれている。

もう少し時間が経った後に、再評価されるべく作品のひとつであるはずだ。
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