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私というパズルのhasisiのレビュー・感想・評価

私というパズル(2020年製作の映画)
3.5
米国の北東部、マサチューセッツ州の州都ボストン。
ショーンの妻、マーサは出産間近の身重の体。彼女は自宅での出産を希望していて、6分間隔の本陣痛がはじまる。
だが、今までサポートしてくれていた助産師のバーバラは、仕事がバッティングして来られない。
代わりに彼女の紹介でベテラン助産師仲間のエヴァがやって来る。
想定外の事態ではあるものの、順調そうに思えたマーサのお産だったが……。

監督は、コーネル・ムンドルッツォ。
脚本は、カタ・ヴェーベル。
2021年にNetflixで公開されたドラマ映画です。

【主な登場人物】👨‍👩‍👧
[アンナ・ワイス(アニータ)]2番目の姉。
[エヴァ・ウッドワード]助産師。
[エリザベス・ワイス]マーサの母。
[クリス]スザンヌの夫。自動車ディーラー。
[ショーン・カーソン]夫。
[スザンヌ・ワイス]1番上の姉。弁護士。
[バーバラ]助産師。
[マーサ・ワイス]主人公。妻。
[ルシアンナ(ルーシー)]意味は、光。
[レーン]相手の弁護士。
[ロン]医師。

【感想】🛋️🛏️🛀🏼
ムンドルッツォ監督は1975年、ハンガリー生まれの男性。
脚本のヴェーベルは、1980年生まれの元女優で、監督の奥さんです。
互いの仕事には口出ししないのが暗黙のルール。
監督は、奥さんが死産した時のメモを読み、脚本にするように勧める。
奥さんは個人的な体験を演劇にすることに最初は抵抗があったが「執筆にはセラピーのような効果があった」と後に語っている。
最初は戯曲として公演され、つぎに映画になった。
2人の間には娘さんがいる。

🍎〈序盤〉📸🤰🏼
欠片を失って常軌を逸した女性の話しで、映像は男臭いという人間味に溢れた映画。

マーサはユダヤ人で、実家が金持ち。ホロコースト生存者の娘です。

平常運転のショーンは、お喋りマシーン。ラジオ放送局のように、ずっと喋っている。それでいて、奥さんの苦痛に影響される敏感なタイプでもある。
マーサも敏感で、夫の的外れな気遣いや、チキンな心情をいじってくる。
どちらも責め……。
バランスが悪くて「よくこの2人結婚したな」な印象。どちらかがアタックして、相手が猫を被っていたのだろう。
一緒に暮らしてみないと分からないことが多い。

ドキュメンタリーのように出産シーンがリアルで長い。
経験者の視点だと地獄の再現なのだろうけど、お世話好きな人間の視点からだと、不謹慎だが、生きている実感が得られて満たされる。
監督が戯曲にしたがったのも分かる。
(こうやって人助け中毒になっていくんだろうなぁ) 

「あの時の心無い言葉で傷つけられた」のようなトラウマ日記になっている。
わたしと視点が近く、共感しやすくて観ていて楽しい。
重い題材で2時間越えなのが心配だったけど、日常を扱った話しで、テレビドラマのようにさらさら観られて、時間が気にならない。

🍎〈中盤〉🌨️🌉🚗
夫婦のすれ違い。
監督の自己投影なのだろう、壊れやすい男の鬱描写が上手く表現されている。

マーサは上から目線。周りの人間を見下している。機嫌が悪いと鼻で笑って、馬鹿にした態度が強くなる。せきらら。ショーンは敏感だから一緒にいると辛いだろう。
奥さんは脚本から、旦那は演出でストレスを発散している。

キスシーンや絡みの時にカメラの位置が遠くて見やすい。監督と趣味が合う。

ショーンは発狂しそうになった時に、1人になるのが大人。一緒にいても力になれない。
上手くいっていないのか、親や兄弟が電話ですら登場しない。精神が不安定な要因と関係している気がする。

壮絶。演出と脚本で殴り合っている。表現者たちの夫婦喧嘩。

身近な話し。
家族との揉め事で精神を病んでいる友達の私生活を覗いているような感覚になる。
ショーンに八つ当たりされているクリスが他人に思えない。

🍎〈終盤〉🌱
割れたガラスのような心を、さらに細かく砕く無神経な家族。世代間の価値観の違いにぐったり。
家庭崩壊。
裁判。相手の弁護士が怖い。マーサが本心を伝える切っ掛け。
最後に芽生えた希望の光。

【映画を振り返って】🏡🍏🍎🌳👧🏼
ユダヤ人やハンガリー出身など、遠い国の話しのようですが、出産と夫婦のトラブルを題材にした日本でもなじみ深い話しです。
わたしと映画との相性がよいのか、観ていて苦になりませんでした。

ショーンが心配。
3幕での再生色を強くして、自分を美化して描けたはずなのに、それをしていない。
2幕で、1940年に落橋したタコマナローズ橋について語られる。それは夫の弱さを表す比喩として書かれているけど、ひどすぎるし、全然分かっていない。
脚本からタコ殴り。これだけ頼りない夫として書かれたものを、映画にして救いも入れないなんて自虐的すぎる。
ショーンは、壊れても立ち上がれるのだから弱くない。むしろ、愛する人のために粉々になれる勇気を誇りにしてほしい。

母親も無神経だけど、自分がついていないとダメな人のように書かれるし、マーサを怒らせると本当に怖い。
でも、結局これで「ダメ夫」と「ショーンが可哀想」に分断されて論争になるわけで、
それって監督の思うつぼなんだよなぁ。
(男女の生存戦略の違いが如実。夫婦こわっ)

生命の誕生と死。
話しでしか聞いたことのなかった世界が映像化されていて、興味深かったです。
忘れられそうにないほどインパクトがあって、トラウマ級。
これからは、身近な人に妊娠の話しを聞いても、少しは人間的なリアクションができそうな気がします。
……それだとショーンと変わらないか。マーサに鼻で笑われそうだけど、それはそれで悪くないかも。😋
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