うつろあくた

浄めのうつろあくたのネタバレレビュー・内容・結末

浄め(2017年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

『レイプ、少年法、法の腐敗、社会の旧弊――救いなき暗闇に立ち向かう光、ドゥルガー降臨』

とある監督は社会問題とエンターテイメントは両立しないと発言していたが、自分はそうは思えない。この『浄め』のような作品があるからだ。このテーマならモキュメントにしてストーリーの形式を取らないやり方だってあるし、それでも十分見応えがあっただろう。だがこの作品は映画のエンターテイメントを両立させている。

主人公はアメリカ人の女性フォトジャーナリスト、カーリン。ベンガルールを訪れた彼女は危険を冒して銃を手に入れる。そして彼女のフラッシュバックから、彼女の目的がとあるレイプ事件に関連する復讐だと示唆される。準備を進める中でカーリンがコンタクトを取るのが彼女の知己らしき女性ジャーナリストのディヴィヤだ。

カーリンの復讐劇と並行してディヴィヤとその同僚ジョーティの物語も描かれる。過去のレイプ事件と少年法の問題に強い関心を持つふたりは「プロジェクト・ニルバヤー」という街頭演劇を企画し、世間に問題を提起しようとしている。

更に別件のATM襲撃事件を追う特別犯罪部も加わり、三つの視点を切り替えながら物語は進む。徐々にしか明らかにされない情報と不穏な画面に疑心暗鬼にさせられながら。

カーリンは綿密な計画を立て、アクシャイ、ヴィナイという二人の男を射殺するが、特別犯罪部もATM事件の捜査中にアクシャイとヴィナイに辿り着いていた。ふたりには同級生という共通点があった。

更にカーリンはヒンドゥー至上主義グループと対峙し、傷付きつつも彼らを撃ち倒す。

特別犯罪部の刑事はアクシャイらの母校へ赴き、女教師マンジュラの話から、殺された四人の男(アクシャイ、ヴィナイ、ヒンドゥ至上主義グループの二人)が、かつてこの海辺の町で起きたレイプ事件の犯人であったことを知る。さらに彼らは悪用された少年法と権力からの圧力により、ほんの軽微な罪で逃れていたというのだ。

復讐を遂げたカーリンは犯行に使用した車に告発文を残して去る。

カーリンは「プロジェクト・ニルバヤー」のサイトからジョーティに連絡を取る。ふたりはすぐに意気投合し、プロジェクトにもカーリンは協力するのだが――カーリンはカバンに石を詰め込み入水自殺を図る。


【ここからネタバレ】
水底へ沈みゆく彼女のフラッシュバックの中で物語の真の時系列が提示される!

同時進行のように見えていたジョーティの物語は数年前の出来事である。そしてジョーティこそ、海辺の町のレイプ事件の被害者だったのである。事件のその時カーリンだけが逃げ延びたのだ(ジョーティは死亡)。カーリンの復讐は友の魂の尊厳のための戦いであったのだ。

そして――光に導かれたカーリンは生きることを再び選び、泳ぎ出すのだった。


ラストの時系列のトリックが素晴らしい。題材が題材だ。当然、覚悟して観る。そして当然、殴られる。だが、頬をさすりながら席を立つ準備を始めた時、一番きつい一発を貰う。


作中、ヒンドゥーの神話がカーリンを何度も勇気づけ、導く。“男と神には負けない”アスラ神族の王マヒシャースラを打ち破るため、光の中から生まれたのが戦いの女神ドゥルガーである。カーリンもドゥルガー寺院で決心を固める。カーリンの携えている『バガヴァッド・ギーター』でも、王子クリシュナを導き手クリシュナが「彼らは既に罪により死んでいる。恐れず汝の義務を果たせ」と励ます。カーリンは『キル・ビル』のブライドのようなプロの殺し屋ではない。“人を殺す”ためには背中を押す力が必要なのだ。

復讐は何も生まない? そうかもしれない。どんな理由があっても殺しはいけない? そうかもしれない。『浄め』は一方的な映画かもしれない。でも現実は真逆にずっと一方的なのだ。だから僕はこの「物語」を肯定する。

特別犯罪部はもみ消されていたレイプ事件を再調査して関係者全てを逮捕すると宣言する。だが……。ふと続編を夢想する。友だけでなく虐げられ辱められた全ての女性のために、カーリンがドゥルガーとなり正義をなすのだ。