COZY922

シングルマンのCOZY922のレビュー・感想・評価

シングルマン(2009年製作の映画)
3.9
クラシックで美しい管弦楽の調べとセピア色の映像空間に包まれた、とても叙情的でとても繊細、そして少しスピリッチュアルな香りのする物語だった。

16年間連れ添ったパートナーを事故で失い、紛らわすことのできない深い悲しみと孤独に苛まれる大学教授のジョージ。愛する人のいない人生に意味を見出せず、終止符を打つ覚悟を決めた最後の日。隣の家の少女、自分が教鞭をとる大学の講義、メイドや大学のスタッフとのやりとり・・。死を決意すると、ふだん目にしている風景や身近な人のなにげない仕草までもが違って見えるものなんだろうか。

たびたび映る時計、パートナーのジムとの幸せな日々のフラッシュバック、幕引きに向けて几帳面に準備をするシーン。刻々と迫る1日の終わりがそのまま人生の終焉となるのだろうか。セリフ・色調・抑揚、すべて抑えめの描写はジョージの喪失感の大きさを代弁しているかのよう。流れる音楽の旋律は透明感があって美しいけれど哀しさを煽る。ジョージの一途な気持ちに、観ているこちらも息苦しいような切なさに襲われる。

今よりも偏見があった時代の同性愛。監督のトム・フォード自身が同性愛者でありトップデザイナーでもあるせいか、映像は2人の愛を慈しむかのように美しく、どぎついシーンが無いのに甘美で、なのに品があり、部屋や衣装,ちょっとした小道具に至るまでセンスと美意識の高さが感じられる。大切な人を失う哀しみや虚無感はいつの時代でもどんな愛でも普遍的なもの。異性であれ同性であれその思いに違いはない。

セピア色の色調が色づき彼の気持ちに少し変化の兆しが見て取れる終盤からのあのラスト。皮肉でほろ苦さと人生の儚さを感じるエンディングが余韻となって心に残った。盛り上がりの無い、エモーショナルな映画なので好き嫌いが分かれそうだけど私は好き。秋の夜長に1人で観たい映画。コリン・ファースがとてもよかった。
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