だいき

映画 太陽の子のだいきのレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
4.1
2021年公開映画89本目。

科学は人類を超えるのか。

2020年にに終戦75年目ということで製作されたNHKドラマ「太陽の子」を新たな視点で描いた劇場版。
NHKの底力を見せつけた作品となっており、静謐かつ丁寧な演出を通してあるがままの科学と青春、そして戦争を真面目に突き付けてくる見応えある作品だった。
唯一の核被爆国であり、そして近年でも原子力に纏わる問題を抱えている日本からすると、原子力の研究というのは非常にデリケートな題材。
広島原爆投下の日を公開日としている本作も、もちろんその原子力という脅威やそれを生み出す人間の業深さなどにも触れて問題提起をしてはいるが、その描き方については至極フラットだったように思う。

1945年8月6日、様々な意味を伴った科学者の前進が無為に終わってしまう。
主人公修達の奮闘で実験が少しずつ前に進んだとしても、逝ってしまった者達の意志を背負っても、アメリカの物量と研究人材の豊富さの前には敵わない。
とうの昔に完成していた原爆を落とされ無力感と絶望に苛まれる荒勝ゼミの面々。
しかし、この期に及んでなお付きまとうのは「科学とはひたすら前に進み続けるもの」という大原則。
前に進み続ける限り、背負うものがただひたすらに増えていく科学者が如何に業深い稼業なのかが伝わってくる。

本作は戦争映画では付きものの広島原爆投下の瞬間も、玉音放送が流される光景も一切描写されない。
全ての事象が起こった後の広島にその凄惨さを目の当たりにする。
思えば、おにぎりを頬張った後に修が恐れを成して比叡山を駆け抜けるシーンも、海に行った帰りに裕之が走ったであろう山道のリフレイン。
こうした全体的に静謐で引き締まった演出の数々が、映画に重厚さをもたらし、胸に迫る傑作へと昇華させている。
三浦春馬もまた熱演によりこの世に存在を遺した。
彼の人生に確かな意味があったと本作の演技によって見事に示した。
そういう意味では本作が、名実共に三浦春馬の遺作となって本当に良かった。
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