おかだ

あの夏のルカのおかだのレビュー・感想・評価

あの夏のルカ(2021年製作の映画)
4.7
お見事ピクサー、頼むから映画館でやれ


ディズニーピクサー待望の新作はまたしてもディズニープラスでの配信限定公開となりました。

前作「ソウルフルワールド」でもそのクオリティの高さを知らしめながらも、やはり劇場公開出来ない口惜しさというものを大いに感じた訳ですが、今回も同じ。

個人的には「ソウルフルワールド」よりもさらに真っ直ぐにぶっ刺さってくる魂ブルブル級のど傑作でございました。


あらすじは、北イタリアの港町を舞台に、海で生活するシーモンスターのルカとアルベルトが、地上で人間との一夏の交流を通して成長していく様子を描いた王道ジュブナイル系物語。

まず何よりもピクサーの圧倒的な作画による北イタリアの風景がめちゃくちゃ素晴らしい。

これはソウルフルワールドの時と同じで、ピクサーお得意の擬人化手法にとも関係するのだが。
シーモンスターのルカが初めて地上に出た際の風景描写が豊かすぎるので、彼が地上に魅了されるという物語の導入、推進力を映像だけで語り切ってしまうという化け物っぷり。

ここでさらにすごいのが、この後ルカの両親も同じく初めて地上に上がるシーンがあるが、そこでは対照的に非常に薄暗く不気味な描写がなされている。
この辺りの、大人と子供の未知のものの捉え方の違いみたいな部分の描き方って、ファンタジーとかジュブナイル物のど定番で、やっぱりこういうとこも抜かりないなと感心させられる。


その後も乾燥したイタリア港町の空気感や海とのコントラストがめちゃくちゃ緻密に描かれていて、かと思えば終盤の雨天時の湿度の高い感じの変化まで幅を持たせられている。
これだけで物語の状況の転換を視覚的に示してしまえるというのは圧倒的な強み。


それに加えて物語も、少年が社会や人々との関わりを通じて世界を広げていく過程や、そのジュブナイルものならではの出会いと別れの切なさ、人種の多様性の容認を描く寓話的プロット、などなどが非常にバランスよく取り入れられている。

繰り返される自転車で坂を駆け降りる動作の反復が最後に行われる、シーモンスターとなったアルベルトの手を取る人間側としてのルカという構図もとても上手くて、ラストは何がなんでも泣かせにくる卑怯な幕引き。


こんなに良い脚本を、風景描写や動作の反復などの映像表現主体で語り切ってしまうピクサーの圧倒的な筋力にただただ脱帽でした。
めちゃくちゃオススメなのですが、なんとか映画館で観たい。
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