こちとら毎日を生きることに必死

私は決して泣かないのこちとら毎日を生きることに必死のレビュー・感想・評価

私は決して泣かない(2020年製作の映画)
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10周年とのこと、ポーランド映画祭。
http://www.polandfilmfes.com/
東京都写真美術館のスクリーンにて、最終日午前の回を鑑賞。
こうゆう映画祭って行っとくべきだなって改めて感じた一作。

本作は昨年2020年東京国際映画祭で脚光を浴びており、監督のピオトル・ドマレフスキはNetflix作品も手がける、現代ポーランド映画のトップランナー。
まさに「ポーリッシュ・シネマ・ナウ!」というテーマがふさわしい作品といったところ。

ポーランドで母と弟の3人暮らしのオラの元に、出稼ぎ先の不慮の事故で、父が亡くなった、との連絡が届く。重い障害を持つ弟とその介護に勤しむ母に代わり、オラは、父の遺体を引き取りにダブリンに向かう。父に対する複雑な感情を持つオラは、死の経緯や出稼ぎ先での生活を追う中で、様々な大人と出会い、父の想いを知る。
あらすじを端的に書けば、こんな感じかな。

なんと言ってもオラのキャラクターが魅力的。
冒頭で運転免許の路上検定中のオラは、飛び出してきて検定の邪魔をした運転手に対して、ブチぎれる。
全編通じて怒りっぽく、感情的な印象をうける彼女だが、直接的に暴力的な振る舞いを演じるのはここと最終盤での美容院の変態店主に対してのみ。
彼女にとって、父との唯一と言っていいつながりは「運転免許を取ったら車を買ってやる」という約束だけ。その約束を果たすべく、3度目の検定で目前に迫っていた合格を奪われ、激昂する。
最終盤の怒りは、父と同棲していた女性を性的に搾取するクソ変態男に対してだ。振り向きざま、どつく。ど突く。
どちらも父を媒介しているのは共通しているが、前者は「自己」のための怒りであるのに対し、後者は「他者」のための怒り、だ。この差がダブリンで過ごした彼女の成長を端的に示していて、いい表現だなーと思う。

何かと母との衝突も描かれている。
基本的に反抗的な態度なのに、つべこべ言われながらも弟の介護は当たり前のこととして協力したり、声を荒げて不安を与えたことにはすぐに謝ったり、極め付けは怒って部屋を飛び出した後に、戻ってゴミを拾うんだよね、、、はい、あんた絶対いいやつだろ。

ポーランドの街のある種の暗さ、退廃的なイメージは旧共産圏特有のものがあるが、独特の魅力を放つ。
作品の社会的なメッセージはダルデンヌ兄弟の『サンドラの週末』やケン・ローチの『わたしは、ダニエル・ブレイク』にも通じるところか。

まぁ、とにかく理不尽なんだ。
不運に見舞われたら終わりかよ。不運は俺のせいかよ。
なんで誰も助けてくれないんだよ。

本作の主人公オラは、17歳でこの理不尽に晒される。
周りの大人に食ってかかる。欺瞞や社交辞令みたいなものは許さず立ち向かう。
それに呼応する人も現れることが希望だし、同年代の若者たちのゆるい連帯(一夜限りなんだけど確かに彼女は救われたはずだ)も示されて、決して絶望的なラストにならないことが救い。

アイルランドも長く不景気なイメージがあったが、ポーランドからの出稼ぎ先としてはメジャーなのだろうか。職業紹介所があるくらいで。行列に無言で並ぶ大人たちを他所に休憩中の部屋に飛び込む彼女は、やっぱり只者じゃないよね。

だいぶ取り留めのない文章になってしまったので、この辺にしとこ。