宮川アパート大上映会

ドライブ・マイ・カーの宮川アパート大上映会のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.8
サーブ900かっこいい。美しすぎてずっと見ていたい。サーブの造形美と空気を凝縮させたような見事な描写。みさきとこの車は似ている。口数は少ないが質実で、きちんと向き合えば寄り添ってくれる。ふたりとも北国で生まれて、北国を目指すのもいい。不幸設定すぎるせいもあるが、みさきは少し痛めな女性な気もするし、家福も、ある種のフェミニズムに嫌われそうだ。車へのこだわりとか運転とか(でも、車を大切にしているひとなら、わかる、とうなずくだろう)。よくハルキストと揶揄されるような自己陶酔が見え隠れして鼻につかないでもない。でも、それでもサーブを撮ってくれてありがとうと言いたい。

ひとりで車に乗るときは、ひとりきりのようでそうではない。ふたりで車に乗るときも、ふたりきりのようでそうではない。会話も沈黙も、両方が存在しているのを感じさせてくれる。タバコに火をつけあうこと、煙を吸い込み吐き出すこと、それだけでも何事かがそこにはある。空気と風を感じさせてくれる。そして景色を見せてくれる。ふたり別々の目だから、まったく同じ景色を見ることはできないが、車は見つめる方向を合わせてくれる。そして目的地まで運んでくれる。さ迷おうとも、それをドライブにしてくれる。ぜんぶ車のおかげだ。自分の足だけでは限界があって、車の助けを借りることで、他人とともに、前に進むことができる。生きるということはそういうことではないか?

しかしまあ、サーブ900かっこいい。