せつ子

ドライブ・マイ・カーのせつ子のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.8
素晴らしい大傑作。めちゃくちゃ好きな映画だった。

同じく村上春樹の短編原作の『バーニング』もかなり好きだったが、あちらは良質サスペンスに昇華されてたのに対して、こちらは傷を抱えた人々の救済の物語へと昇華されていた。喪失と後悔があり、最後には救いがあり、とても感動した。

原作は村上春樹の短編集『女のいない男たち』の一作『ドライブ・マイ・カー』で、もともと読んだことがあり今回映画を観たあとに再度読んでみたが、本当に映画ならではの話の広げ方、展開の仕方がうますぎる。

中でもすごいのはやっぱり『ワーニャ伯父さん』の劇中劇。原作でも少し出てくるが、劇中劇としてしっかり描かれるのは映画だけだし、多国籍言語の演劇というのも映画オリジナル。だけど『ワーニャ伯父さん』の台詞がこの映画にすごくマッチしていて、本筋のストーリーを下支えしている。ソーニャと伯父さんのやりとりが、家福とみさきに重なり、最後の舞台は本当に素晴らしい。
ソーニャ役の韓国の女優さんも素晴らしく、繰り返し聞いてきたテープの台詞が一番胸に迫ってくる。この舞台のシーンが一番好き。
劇の舞台と映画館の自分の客席が繋がってるような感覚になる。これは映画館で観れて良かった。

空き巣の話も『女のいない男たち』に入った一作がモチーフになっている。
物語の中の物語が少しずつリンクし、クロスし、深く不思議な色合いになっている。村上春樹の作品は大好きだが、『海辺のカフカ』や『1Q84』などの長編で交互のお話が少しずつリンクするあのワクワク感、高揚感に近いものがある。
濱口竜介監督、これは見事すぎる。

台詞や雰囲気も村上春樹の世界観を残しながら、3時間まったくだれることなく、ぐんぐん引き込まれてしまった。
赤のサーブ、雪景色、煙草と高速のオレンジの光。印象的なシーンがたくさんあった。世界で支持される村上春樹を原作に、緻密に練り上げられた邦画の妙を感じた。
せつ子

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