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ドライブ・マイ・カーの777のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
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久しぶりに映画館で見たことを後悔した。
副題に『文化人おじさんのおしゃれオナニー』ってつけたいくらいには対象者を限る映画だと思った。
それっぽい雰囲気エピソードとセックスでラッピングされた悲劇の男はまさに春樹。

限られた対象者(今回であれば、文化的教養があると自負する中高年男性)の気持ちいい設定・展開の詰め合わせという意味で、これは異世界転生と何が違うんだろうか?
画面はすごく綺麗だし、車の運転や手話を用いた演出は素敵だったけど、肝心のストーリーには全く共感できない。

西島秀俊の感情を殺した演技が、いかにも(僕は立派な大人だから、どんな目にあっても冷静なんです)ってアピールに感じて鼻につく。

今まで後部座席に座ってた家福が突然何も言わずに助手席に座った時は、ゾッとして目を逸らした。そのあとの二人でタバコを持って空へ手を伸ばすシーンまで含めて、ものすごくファンタジー。いや、映画だからファンタジーチックなのは当たり前なんだけど、渡利は家福のして欲しいことをタイミングのいい時にするだけの役なんだなと思って。
最後の方の雪山のシーンは、渡利に(頼むから家福を抱き締めたりしないで……)とお祈りしてたけど、これも徒労に終わった。ここまで描かれてきた渡利ってそういう人間だったっけ? ここでも渡利は、擬似的に娘の愛を乞う中年男性の望むままに動く。

音も渡利も、結局は家福を「悲劇から立ち直った聡明な男」にするための舞台装置でしかない。そんな感じを受けた。
あくまで音は「家福に悲劇を起こす魅力的な妻」、渡利は「傷付いた家福を慰める寡黙な娘」というツールであって、行動の奥に本人の意思みたいなものが稀薄。
原作だともっと詳しく表現されてるのかと思ったけど、そもそも村上春樹なので、女が主人公のための舞台装置なのは変わらないかも。

渡利役の子の目は良かった。
光を失わない、強い意志を持っている感じ。この子は家福がいようといまいと、「ただ生きていく」ということができそうだと思わせる。

文化的教養のある中高年男性、つまり家福っぽいペルソナの人にはおすすめする。演出の質が高いので、自己投影できる人には最高の映画。
そうでない人にはすすめないだろうな。
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