金宮さん

ドライブ・マイ・カーの金宮さんのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
3.0
人間関係の成立のために「偽る」「装う」部分があったとしても、そんな要素も含めてその人。ありのままを受け止めたり、思いのままに反応してみることで解脱できることもある。宇多田ヒカルさんのSimple and Cleanの歌詞を思い出す。

「登場人物全ての台詞を頭に叩き込む=他者の感情を把握したうえで自分の感情を吐露する」という家福の演出手法はそれとの対比。

そして、そのメッセージは韓国手話という表現をもって劇中劇の台詞でラストに明示される。ちなみに、韓国手話がわかるのは演劇外の存在であるプロモーターの夫のみ。

でもこんな解釈ではまったく足らない気がする。とにかく情報量が多い。チェーホフの引用や妻のオーガズム脚本など解釈幅がほぼ無限。いつもだと楽しい要素なのだが、流石に多すぎるというか。言っちゃうと全シーン深読みしなきゃいけない感じで泥沼のように感じてしまう。

例えばテープや稽古を用いて、戯曲の引用台詞が千本ノックのようにやってくる。それらは会話のキャッチボール上になく文脈などないので、通常の台詞より注意深く聴かなきゃ流れていっちゃう。やっぱりページを戻せる活字向き。ちょっと文学的すぎて難解というより疲れてしまった。主題に反して観客とのコミュニケーションがまわりくどい。

いつ爆発するかわからないヒリヒリ感漂う雰囲気は素晴らしい。ただ、そのヒリヒリ感を活用しつつ、一つのメッセージに誘導してくれていた「寝ても覚めても」の方が正直好み。

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鑑賞後、モヤモヤしたのでYouTubeでレビュー動画を漁る。大島育宙さんの「お化け・霊を解釈した映画」には目から鱗だった。死者に対する自己の強い思いの発露が心霊現象だとするならば、確かに家福はテープ稽古をルーティン化することでそこに自ら飛び込んでる。
金宮さん

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