Angiii

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスのAngiiiのレビュー・感想・評価

5.0
宇宙音楽師、サン・ラーは地球で抑圧されているブラザー達をどうにかして救おうとしている。
彼は宇宙的跫音とも呼べる激烈な音の重なりに精神と音楽の本質を説き、"真に黒人"である兄弟たちに救いの手を差し伸べていた。しかし彼の邪魔をする者たちがあの手この手で迫ってくる。果たしてサン・ラー的ユートピアの実現は叶うのか?

この映画は人種問題への宇宙的(サン・ラーの個人的)見解、黒人コミュニティそのものが孕む歪、音楽と人間の関係を複雑に紡いだサン・ラー自身による政治的表明として考えてもいいだろう。

サン・ラーの邪魔をし続けるNASAの白人研究者が表すのは『白人 vs. 黒人』という全体的な対立構図として明白だが、特筆すべきなのは"監視者"と呼ばれる黒人の存在である。彼は富と権力に満ちているが、それは白人社会に擦り寄った賜物であり、居場所のない同胞を踏み台にしている。彼の名前はまさに"奴隷頭"であり、黒人コミュニティ内では裏切り者として見なされている。そしてサン・ラーは彼とタロットを使った賭けをしていくのだが、それ以降彼がどうなるのか、映画を見れば明らかであろう。

このようにして強烈な印象を携えて社会に一石を投じた作品だが、この映画の視点はかなり強いアフロフューチャリズムに基づいていることを忘れてはならない。時代は進み、白人でもなく黒人でもない私の置かれている社会的文脈は映画内の視点の持ち主とは異なる。故に私の捉えたものはサン・ラーが真に伝えようとしたものとは違う何かが混在しているかもしれない。


総じて、このような諸々の要素を独特な雰囲気をまとった映像として叩き上げた衣装セットとサン・ラーの宇宙音楽は非常に素晴らしい。彼のジャズは魂の力に満ちている。サン・ラーをもとから知っている者はともかく、初めて知った方々も是非彼の音楽に触れていただきたい。幸いにして、彼は地球を去る前に存在の証としてジャズを我々に遺してくれている。ビートが聴こえたらば目を閉じてみよ。

目前は宇宙である。
Angiii

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