Tanuki

あの夜、マイアミでのTanukiのレビュー・感想・評価

あの夜、マイアミで(2020年製作の映画)
4.3
すごく良かったので2回続けて見た。マルコムX、サム・クック、モハメド・アリ、ジム・ブラウンが一部屋に集った夜、どんな会話が交わされたか?事実から想像を膨らませた戯曲を元にした作品。作中激しく口論するマルコムとサムは、この出来事から1年以内に死を迎える…。

当時の黒人に勇気やパワーを与える象徴的な存在だった4人。活躍する世界はスポーツ、音楽、政治活動とそれぞれ違い、差別との向き合い方や生まれ育って生きてきた環境も当然違う。彼らの偉大さだけでなく、人間らしい葛藤や間違いを描いているところに惹かれた。

急進的な黒人解放運動で知られるマルコムXが、白人にも評価される人気ソウル歌手であったサム・クックに執拗に噛み付くのは、彼の持つ才能や影響力を、もっと黒人解放のために使ってほしいと思うから。大義があるからこその行動だが、友人を資源として見てる節もある。

一方で、モハメド・アリの試合やサムのパフォーマンスを心底嬉しそうに見つめるマルコムのシーンが印象的で。彼らの才能を愛して評価しているからこそ、彼らを自分の道に引き入れようとしたのかもしれないと思わされる。

スポーツや音楽で黒人達に希望を与える戦い方は、マルコムには選ぶことのできなかった道だ。マルコム自身、彼らに希望をもらっていたのかもしれない。彼がカメラを持ち、友人たちを写真に収めたときの気持ちを想像する。

4人の中では少し影が薄いように見えるジム・ブラウン。彼が常に他のメンバーを静かに見据えて本心を覗き込んでいるように描かれているのは、もしかしたら彼が唯一存命だからかもしれないと思った。今はもういない偉人たちと、彼らを遠くから見つめる私達を繋ぐ存在。

舞台を元にしていることもあって、ほぼ全編小さなホテルの部屋で展開する物語。4人がクルクル立場や態度を変え、スタンスの違いも少しずつ明らかにしながら進む対話が気持ちいい。会話の中には事実も多く含まれていて、きっと見るたび新しい発見のある作品だと思う

すごくおすすめ。Netflixにある『リマスター サム・クック』で、まさに彼ら4人の関係やこの夜のことにも触れてるので、合わせて見るとより理解が深まります。
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