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スペルのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

スペル(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

弁護士のマーキスは、絶縁していた父親が亡くなったことを知り、プライベートジェットを操縦しながら家族と故郷に向かう。しかし途中で雷が落ちて墜落し、目が覚めると不気味な夫婦の家のベッドにいた。親切に看病してくれるが不信感が高まったときには時すでに遅く、お手製の呪いの人形を作られていた…。

低予算で既視感が強いストーリー構成だが、主人公の不安を煽る演出がなかなか面白かったホラーの佳作。
また、出演するのは黒人のみというのが、ポリコレ映画流行の今どき珍しい。
その黒人の土着信仰であるブードゥー教の信者が、黒人を襲うところが皮肉であり、妙に考えさせられる作品である。

事故に遭って目が覚めたら、知らない家のベッドに寝ていて、家族の生死も不明。
足に怪我を負ってまともに歩けない。
しかも、助けてくれた夫婦は救助や警察を呼ばず、家の中に監禁する。

果たして夫婦は一体何者なのか?
主人公を監禁する目的は何か?
行方不明の家族は生きているのか?
ストレスの溜まる不安要素だらけのサスペンス設定はスティーブン・キング原作の「ミザリー」そのもので既視感たっぷり。

そこにブードゥー教が絡む。
夫婦は怪しい呪術をやっていて、いつの間にか主人公の呪いの人形を作っていた。
その人形をいじると主人公もダメージを食らい、逃げようにも逃げられず、訪れた保安官を前に声を奪われ、助けも呼べない。

ショッキングなシーンがいくつかあり、脱出できない状況に飽きた時のスパイスとなっている。
マーキスは与えられた食事を食べるが、骨つき肉の骨を並べてみると、何と人間の手の形に。
思わず吐き出した食べ物を見ると、その中に息子が手に彫っていたタトゥー入りの皮膚が。
食事の材料は息子の手で、それを食べてしまった!という罪悪感に見ているこちらも嘔吐感に襲われる。

また、包帯で巻かれた痛む左足を改めて確認してみると、太く長い釘が打ち込まれていた!
コレが20㎝位の長い代物!そりゃあ痛いわけだ。
しかも夫婦が足の状態を確認しようとするので、抜いた釘をまた戻すシーンがこれまた痛い!
殺人鬼に切りつけられるありがちなホラー映画のシーンより、かなり痛々しい本作の白眉である。

どうやら夫婦とその使用人(信者も?)は19世紀から呪術の儀式で生贄を捧げることで生き長らえていたらしいことを、主人公は地下室で知る。

クライマックスでは、実は家族も生きていて、延命の儀式に生け贄として参加させられそうになる。
息子も手を失ったものの生きていた。

最後は、機転を利かせたマーキスが呪術を逆手に取り、しかも呪いを操る老女の人形まで作ったりして、呪術バトルの末に勝利を掴む。
家族も無事に助かるスッキリ感のある結末だ。

主人公は幼少期に父親から虐待を受けていた過去があり、そこからどのように脱出したか?が伏線として描かれていれば、主人公の不屈の精神の源が感じ取れて、もっと良くなったのではないか?と思う。
個人的には劇中で一度だけ流れるスクリーミン・ジェイ・ホーキンズの名曲「I Put a Spell on You」を、そんな場面でもっと流して欲しかった。
あの曲はジム・ジャームッシュ監督の「ストレンジャー・ザン・パラダイス」より本作の方が世界観がピッタリ合うはず。

それにしても黒人のカルト宗教・ブードゥー教が黒人を襲い、それを黒人が倒すというところに、どうも皮肉めいたモノを感じる。
本作は「ミッドサマー」や「ヘレディタリー」などカルト宗教をテーマにした近年のホラーの流れを汲む作品。
しかし20世紀の初頭にハイチを占領したアメリカは、1932年の「恐怖城」以降、しばらくハリウッド映画でゾンビが出現する原因をハイチのブードゥー教として、ブードゥー=黒人のイメージダウンを行った過去がある。

そして今、Black lives matter運動に代表されるように同属意識の強い黒人が、黒人の暗部であるカルト宗教家を倒す。
黒人がブードゥー教は単純に悪とするところが、黒人自身が自分たちのルーツの一部を簡単を捨ててしまっているようで、なぜか悲しい余韻が残る。

そこまで深読みする必要は全く無いのだが(笑)
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