もも

ピースメーカーのもものレビュー・感想・評価

ピースメーカー(1997年製作の映画)
4.8
★3.2のわけなくない?
この二人の名前に惹かれて観るような昭和生まれの「映画好き」には難しすぎたということなのだろうか
阿呆は背伸びせずに「Shall we ダンス?」でも観てればいいのに……
今となっては埋もれた作品だが、「ちょっとした掘り出し物」というレベルを遥かに超えた、ポリティカル・スリラーの最高傑作である
9.11より前に対テロ戦争を題材にしており、その時点でもう凄い
この後に作られた対テロ戦争ものの映画は主人公に花を持たせるためにアメリカ軍とテロリストが互角の戦いをしているかのような描き方をするものがほとんどだが、本作は「強大なアメリカと弱っちいテロリスト」という非対称性を決して崩さず、にも関わらず強いサスペンスを持続させるという離れ業をこなしている
クライマックスは初老のピアニストをFBI(主人公側)が総出で追いかけまわすという非対称性の極み、かつハリウッド映画にあるまじき展開である
「そんなん楽勝じゃね?」と思われるのだがそうはいかず、最後まで目が離せない
このあたり「敵が弱いはずなのに勝てない」という対テロ戦争の特徴を先取りしていてやっぱり凄い
また「狙撃手が民間人を撃つ」というボスニア内戦の構図を反復しているのも天才的
FBIの狙撃手が「子供が邪魔で撃てない」と言ってるのにジョージ・クルーニーが「いいから撃て」と怒鳴ったりして、アメリカという国家に嫌悪感を抱くこと必至である
もちろん監督はわざとそのように演出しており、初期ドリームワークスの尖ったカラーが鮮烈に表れている
本作は全てのディテールが極めて緻密に作り込まれており、軍人や分析官の台詞に曖昧なところが全くない
例えばニコール・キッドマンが核爆発を分析するくだりなどは並みのサスペンス映画の倍くらいの情報量が詰め込まれているが、きちんと整理されているので分かりやすいし興味深い
また、登場人物が常に合理的に行動するので駆け引きも緊張感がある
コドロフが乗ってるトラックを特定するために電話で脅しをかけるくだりなどは素晴らしい
軍事技術の描き方もレベルが高く、機材そのものはブラウン管モニターを使ったりしていて今見ると古めかしさがあるのだが、人工衛星による監視システムといった規模の大きいテクノロジーを合理的に活用し、かつ的確な情報分析(インテリジェンス)を行うことにより対象を追い詰めるプロセスが克明に描かれるので、アメリカの行っているハイテク戦争の恐ろしさが身に染みて分かる
アクションシーンもいちいち工夫があり、例えばダゲスタンで核兵器を奪還するシーンは舞台の高低差をフル活用していて迫力があるし、なおかつストーリーと緊密に連動しているので興奮させられる
ミミ・レダー、どうかもう一度アクション映画を撮ってくれないものだろうか……
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