EDDIE

チェリーのEDDIEのレビュー・感想・評価

チェリー(2021年製作の映画)
4.3
優しすぎる彼にとって戦地は厳しすぎた…PTSD、薬物中毒、借金苦、一つの苦しい体験をきっかけに押し寄せる負の連鎖。
愛する者すらも不幸にしてしまう病の恐ろしさを無惨に描く。
心を嘔吐かせるトム・ホランド演技の新境地!よくぞ、ここまでやり切った!

いやぁ、圧巻でした。
冒頭に書いたように、戦争映画でPTSD(心的外傷後ストレス障害)を題材にしており、薬物依存や借金苦による強盗など、さまざまな問題を抱えながら、恋人との関係性を深ぼっていく盛り沢山な内容。
テーマが一貫していないとブレることが多いんですが、本作は章立て構成となっており、しかもそれぞれの問題が密接に関わっているからこそ迷子になりません。

トム・ホランドが配信開始前から関係各者よりオスカー級の演技だと絶賛されたのも納得の体当たり演技。
『スパイダーマン』などでアクションはお手のものですが、依存でボロボロになっていく姿が痛々しく生々しいです。

何よりもこの作品が良かったのは、トムホ演じる主人公チェリーが何者でもないこと。
いわゆるどこにでもいる平凡な男で、むしろ特技など持ち合わせていないからこそ選択肢が限られ、その中でどんどん不利な状況に追い込まれていきます。
ケン・ローチ監督の『わたしは、ダニエル・ブレイク』や『家族を想うとき』のように社会的弱者を扱う映画はありますが、やはり本作はそのような社会的弱者が依存症に陥り、身の回りの大切な人たちにも伝播していく模様がかなりリアルに描写されています。

薬物依存を描く映画も個人やその家族が崩壊していくものはあれど、さらに友人など関わりのある人にも影響していくのが本作『チェリー』です。

きっかけは軽い気持ちで臨んだ軍への入隊。実際に戦地に赴き、そこであまりにも悲惨な体験をしたからこそ後遺症に悩まされることになります。
深く考えない主人公をバカだと感じるか、広い世界の数多いる人々の中の一部にはこんな人もいると考えるかで感じ方は変わると思います。
むしろ自らの強い意思で人生を選択できる人の方が少数だと思うんですよね。だから、彼の経験や体験って他人事とは言えないんです。

しかも主人公チェリーの歩んできた人生が、原作者ニコ・ウォーカーの実体験だといいます。そう考えるとあまりにも壮絶ながら、フィクションでないことがわかると、途端に身近な問題だと認識されてしまいます。

撮影もとても印象的な構図が多く、担当は『ボヘミアン・ラプソディ』や『ドライヴ』などのニュートン・トーマス・サイジェル。特にエピローグの数年間の時間の経過を横流しで一連して映し出すカットと編集の巧みな技術は素晴らしかったです。

音楽担当は監督のルッソ兄弟とも馴染み深いヘンリー・ジャックマン。序盤の物語に引き込む音楽は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』風で凄く良かったですね。

とにかく単一エピソードだけでも切り取って巻き戻したり、繰り返して観たりしたい作品。とてもつらいですが、映像面やトムホの演技など何度観ても夢中になれる要素が満載です。

これがAppleTV+オリジナルで配信のみというのが勿体ない感覚です。より多くの人に観ていただきたい…。

※2021年自宅鑑賞53本目
※2021年新作映画27本目
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