Tanuki

心の傷を癒すということ《劇場版》のTanukiのレビュー・感想・評価

4.5
精神科医・安克昌の著書を原案としたNHKドラマの劇場版。主人公が在日韓国人である自らのルーツについて葛藤しながらも、他者の心と真正面から向き合い、阪神淡路大震災の被災者に寄り添う姿を描く。心に傷を負った人々を切り捨てる現代社会にこそ必要に思える作品

作中、主人公の父親の「心なんてどうでもいい。なんでもっと社会の役に立つことをしないんだ」という台詞がある。主人公自身も阪神淡路大震災の際、生きること食べること住む場所に困る人が多くいる状況で、自分はこんなことをしているべきなのかと思い悩む。

心は目に見えないので、他のいろんな事柄よりも、心のケアは後回しにされてしまう。重要じゃないと思われる。しかし、被災者と真っ直ぐに向き合う主人公を見て、そして闘病に苦しむ主人公を見て、心の傷を癒やすということがどれほど大事なのか思い知る。

主人公・安和隆を演じる柄本佑さんの関西弁の響きがとても優しくて、一言一言が心に突き刺さった。自分が辛いときにも、周りの人たちの気持ちを思いやって、相手が楽になるような言葉を送れる人。スクリーンから彼の思いやりが伝わってきて、たまらなく泣いてしまった。

弱くてもいい。辛いことや悲しいことは溜め込まないで言葉にする。主人公が苦しんでいる他者にその言葉をかける一方で、主人公に対しても同じことをしてくれる他者がそばにいる。ケアしあって生きていくこと。損得ばかりが優先される現代社会にこんな風景が増えてほしい

阪神淡路大震災、そして東日本大震災の復興がどんなに進んだとしても、心の傷を抱えて苦しんでる人がいることを忘れてはいけないということも、強く伝わってくる映画だった。これもあまり公開館数多くないけど、できるだけ多くの人に見られてほしい。

主人公のルーツについてしっかり描いていたことを嬉しく思うと同時に、自分自身もっとしっかり知りたいと思った。
Tanuki

Tanuki