福福吉吉

竜とそばかすの姫の福福吉吉のレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.5
◆あらすじ◆
女子高生の内藤鈴は幼い頃に母を亡くして以来、歌うことができなくなった。鈴はある日、親友の弘香に誘われて、ネットの仮想世界「U」に自分の分身「BELL」で参加する。Uの世界で歌えるようになった鈴は喜んで歌ったところ、多くの賞賛を得る。鈴がBELLのコンサートを始めようとしたところ、謎の「竜」が現れてコンサートが中止になってしまう。周囲の悪評を他所に鈴は竜に心を惹かれていく。

◆感想◆
歌うことができなくなった少女が仮想世界で歌姫として周囲を惹きつけていく様子と、謎の龍との交流とその顛末を描いた作品となっており、仮想世界Uの美麗なグラフィックと透き通った歌声が印象的でした。

内藤鈴は幼い頃、母が他人の子供を救うために命を亡くしたことにより歌うことができなくなり、父にも心を開かないようになります。しかし、鈴には親友の弘香や幼馴染の忍がいるおかげでストーリーに影響するほど内向的すぎないため、観ていて陰鬱な感じは受けずに観やすかったです。鈴がBELLとして歌を歌って人気を得るUの世界と現実のほんわかした世界のギャップとその中で様々な表情を見せる鈴の姿が良かったと思います。

一方、竜は終盤になるまでその正体が明らかにならないのですが、竜の存在がこのストーリーの肝として上手く機能しており、正体を暴こうとする人の醜さや一方的な正義の価値の無さを表していて良かったと思います。

ストーリーのテンポは良く、現実の世界の親近感のわく日常の流れとUの世界で劇的に進んでいく流れが上手く絡み合って、緩急をつけていました。

しかし、本作のネットの世界は都合よくまとめ過ぎていて現実味に欠ける気がしました。そして、終盤の展開はかなり強引な気がしました。1人の女子高生に飛び込ませて良い問題ではないと思います。

映像としてUの世界は美麗でありながらどこか寂しく、温かみに欠ける世界のように感じました。それが故に群れを成した時の人の分身たちの騒々しさがその寂しさを埋めているように感じました。一方の鈴の住む田舎の風景は温かみがあって観ていてほっこりしました。映像としても現実と仮想世界は対照的でした。

終盤の展開に少し納得のいかない部分があるものの、亡き母が他人の子供を救おうとした思いを現在の鈴が知るシーンを観て心にガツンと来るものがあり、観て良かったと思いました。なかなか面白かったと思います。

鑑賞日:2024年1月16日
鑑賞方法:Amazon Prime Video
福福吉吉

福福吉吉