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静謐と夕暮のhのレビュー・感想・評価

静謐と夕暮(2020年製作の映画)
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一人暮らしのアパートの部屋に滞留していた夕暮れの生温さを見つめていたこと。自らが選択することを放棄しながら、待ち続けていれば何かが変わるかもしれないと心のどこかで思っていたこと。無力さと全能感のあいだを揺蕩いながら、理由もなく波にのまれてしまうこと。自分をかたちづくっている輪郭が、それらの影や湿度や波といった媒質に簡単に溶け出してしまうほど曖昧だったこと。その脆さと共にい続けるしかなかったこと。
在りし日の記憶の質感を辿りながら、若さという身体感覚の一部はそのような刻々とうつろう流れの上にあったことを思い出す。(観客席を含んだ)境界の人たちが、それぞれの水脈が合流する淀川の高架下という空間に、ささやかな痕跡を残しながら押し黙ったまま交差していく。

画面のなかの饒舌な沈黙は、日々の内側で鳴り響く通奏低音の圧に満ちていて、それは生きていることの本当を描いているように思えた。意識しないとそこにあることも気づけなくなってしまう、川辺に鳴き続ける虫の音のように。
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