いの

クライ・マッチョのいののレビュー・感想・評価

クライ・マッチョ(2021年製作の映画)
4.0
良い映画だった。
他のSNSで
「イーストウッドのイーストウッドによるイーストウッドのための映画」
と批判的なコメントがあったけれど、その言葉を称賛の意味で使いたい。これはイーストウッドの映画人生の継承で踏襲で、彼の為の、そして彼に魅せられてきた人の為のロマン映画だ。

脚本や構成はグラン・トリノに似てる。あれが更に老人側(イーストウッド)寄りの視点になった感じ。
多くの批評にあるように脚本は薄く感じられるから、正直一本の映画として人におすすめはできない。
でも過去の人生でイーストウッドの映画を時と共に何本か見てきて人は見るべきだと思う。
作中でマイクが語る台詞は役柄のものでありながら、まさにイーストウッド本人の言葉だと、きっとファンなら誰もが思うだろう。91歳の言葉だからこそ、重みと説得力が生まれる。輝かしいキャリアを持ちながら老いてもなお学びと恥を持っている謙虚な人柄が見える。イーストウッド自身がこの役を演じること、"老いる"ことの意味も与える強みも知っているんだなと思わせられる。

そして謙虚とは言ったものの、作中でイーストウッドが所謂"モテる"描写"、これは「流石にない」と言っている人も多く、思わずニヤニヤしたし、やるなぁ、と思った。
でもこれは現実(リアル)を描いているんじゃなく、あくまでロマンだと思うからそれでいいんだと言い切りたい。
私が見た回の劇場には殆どが白髪混じりの50〜↑以上の人達。平日なこともあり20代はパッと見私しかいなかった。この人達はきっとまさにイーストウッドのスターな姿に魅せられて青春を共に過ごした人達。イーストウッドに憧れを抱いた人達はこれから更に老いる。でも作中のイーストウッドは老いながらも謙虚で、カッコよく、恋までして…こんなふうに歳を取れたら、と私でも思う。
イーストウッドに魅せられた人達は、私なんかよりももっとずっと共感をして、自分の人生を振り返って、そしてまた憧れを抱くんじゃないか…そう思う。
歳を取ったからってしわがれた人生を送る必要はない。どんなに歳をとっても憧れも夢も持っていい、そんな希望も抱ける気がする。

この映画の主演を"マイク"としてだけ見るか、"イーストウッド"を重ねて見るかでも評価は割れると思う。映画の感想や批評としては邪道かもしれないけれど、私はイーストウッドの映画史と切り離して見ることはできなかった。だから脚本が薄くても良い映画だったなと思った。

何よりイーストウッドの西部劇が好きな人は、馬に跨る姿だけでジンとくると思う。帽子のツバを曲げないのも。

まだまだ映画を作って欲しいけどこれが最後でも綺麗な終わりだな、と思う。でも100歳超えて欲しいな…。
いの

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