ウスバカゲソウ

モンタナの目撃者のウスバカゲソウのレビュー・感想・評価

モンタナの目撃者(2021年製作の映画)
4.5
原作ものであることとイマイチな前評判に感じた不安は吹き飛んだ。
タイトで無駄がなく、相変わらず硬派な手堅さ。
シェリダン印の一級品。

説明を省き画で語っていくスタイルと、その道のプロたち。
本作の主役である山林火災初動部隊「スモークジャンパー」を始め、保安官やサバイバル教室の教官、そして敵である殺し屋ももちろんプロ。
それぞれの信念や計画に基づき即応していく姿は、システマティックでかっこよく美しい。
皆に活躍の場面がきちんと用意されている真面目さも嬉しい。
珍しいのは殺し屋側の事情がそれなりに時間を割いて描かれている点。
コストカットのうえ厳しい環境での仕事を余儀なくされ、「だから言ったのに!」と愚痴をこぼしながら、しかし最善を尽くそうとする彼らには同情と尊敬。
現場が苦労して心身を削られていくという労働者あるある。
プロの世界の、タフでハードな仕事ぶりとリアルなアクションは、ピーター・バーグ、デヴィッド・エアーあたりを彷彿をさせる。
その源流のマイケル・マンも。
シェリダン作品では珍しく女性が傍観者、蚊帳の外にならず過酷な状況を打破していく姿が描かれる。
敵に止めをさすのが誰なのか。
特に主人公であるハンナは消防士という職業にごく自然に順応しており、演出側も“女性”リーダー”ということを強調していない。
プロであることに性別は関係ない。
そのナチュラルでフェアな描き方が好感が持てる。
変人であるというのもポイント。
ジョン・バーンサルも良いバーンサルを熱演。
悪役側の正体不明さ、巨大さも不気味でいい味。
打合せ場所のロケーションも良い目の付け所。

主人公ハンナと守られるべきコナーの関係が、母性を軸としない共助共援する対等な”バディ”感で新鮮。
一昔前であれば、コナーと接するうちにハンナが母親のような感情を抱いていく、みたいな展開になったと思うがそれが無い。
二人とも傷つき、他者の死を身近に体験してきた者同士の共生。
子供にどう接していいか分からないハンナの不器用さが微笑ましさと、父親との約束を守り勇敢であろうとするコナーの健気さ。
最後までハンナがコナーのこれからの人生について「分からない」としつつも、一緒に模索していこうという寄り添い方が、静かで優しい余韻を残している。
『ウィンド・リバー』でも組んでいる撮影監督ベン・リチャードソンの撮影も素晴らしかった。
雄大で美しく、また時に恐ろしい原生の大自然。
その自然を焼く山林火災の恐ろしさ。
それらを限られたランタイムで見事に捉えている。
象徴としての自然、動物。
前作のピューマやヤマアラシ、今回のバッタと馬。

現代西部劇と、ただそこにある大自然。
その土地に生きるプロたちと、横たわるアメリカの闇の歴史。
それらを上手くブレンドしたクライムアクション。
シェリダンにはずっとこの路線で行って欲しい。