巨大な組織の中で罷り通る悪は、我々一般国民は知る由もなく、知ったとしても為す術もない。
この映画はそんな悪が存在するこの社会に一石を投じる、問題提起としての作品である。
作中では汚い人間の徹底的な汚さが一番見事に描かれている。
岩渕父は父子の危機的な局面ですら、我が身が可愛いという始末。ラストシーンのあの電話、あのお辞儀、怒りを通り越して呆然としてしまった。
しかも岩淵父をうまいようにこき使っている真の悪は作中でも雲隠れ。汚辱に塗れた人間の醜悪さに対する嫌悪とやるせない思いを胸に我々はフレームの外で西の行く末を見守るしかない。
復讐を果たすために悪への憎しみを無理やり掻き立てて悪に堕ちなければいけない辛さ、佳子への思いで揺れる心…西は1人で多くのものを背負いすぎた。それに辰夫、佳子、板倉…巻き込まれた人間達の哀しみ。
「こんなことがあっていいものか。」
板倉の最後の叫びが痛々しい。
(余談: 西の見た目がちょっと肥えたビル・エヴァンスそっくりだった。ものすごく色気があった)