ビンさん

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のビンさんのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
2.5
TOHOシネマズ橿原にて鑑賞。

何度もアニメ化されている鬼太郎の物語から、鬼太郎誕生にまつわるエピソードをブローアップした、劇場長編アニメ映画。

最新のTVアニメシリーズは第6期になるんだそうで、その際のスタッフが中心となって製作されたんだそうな。
僕が慣れ親しんだのは第2期になるとのことで、鬼太郎はともかく、猫娘のデザインに隔世の感があるが、本作の主人公はいわゆる「墓場鬼太郎」の第一話における、血液銀行員水木になる。

ファンならば、鬼太郎がどのようにして誕生したかは、「墓場鬼太郎」第一話でご存知だろうが、本作はそれより以前の物語となり、最後に「墓場鬼太郎」第一話につながるという構成になっている。

物語は昭和三十一年、血液銀行員水木が、会社の命を受け、とある地方の村を訪れる。
そこは日本の政財界に多大な力を持っている財閥、龍賀家の屋敷がある村だった。
龍賀家は血液製剤「M」で、莫大な資産を有していたが、その当主が亡くなったのだ。
水木はMの秘密を探るため、村にやって来たが、そこで一人の青年に出会う。
その青年は生き別れになった妻を探しており、この村に辿り着いたのだ。
水木は彼をゲゲ郎と呼び、意気投合する。
一方、龍賀家では当主の遺言が開封されるや、一族の人々が次々と殺される事件が起こるのだった。

・・・って、これって「犬神家の一族」やん。

それだけじゃない、あるキャラのセリフからは「獄門島」、あるキャラの境遇からは「病院坂の首縊りの家」、因習に縛られた村は「八つ墓村」。
そこに、またかよ・・・って具合に陰陽道が加わる。

陰陽道はともかく、ここまであからさまに横溝ワールドを持ち込むには、それなりの理由(リスペクト等々)があるのだろう、と思いパンフの監督、脚本家のコメントを読んだが、そこには横溝のよの字もなく。
唯一、監督のコメントに「僕は江戸川乱歩作品などの昭和幻想文学が好きなので・・・」とあったが、いやいや、本作には乱歩のテイストなんてないよ。

僕が本来観たかった、妖怪と人間の関わりについての民俗学的なアプローチをするかと思いきや、メインとなるのは封建的な龍賀家の因習、因縁、因業の物語だ。

もちろん妖怪云々に関する描写もあるが、妖怪よりも恐いのは人間そのものという切り口だ。
たとえばそこに、水木しげる御大のような、シニカルな味付けがあれば納得もするが、そんなものは本作には皆無である。
これはもう、水木しげる、というよりも、花輪和一の世界だろう。

水木が帰還兵で、玉砕から免れた経験者であり、戦後10数年経ってもなお、権力者から虐げられている、という設定は説得力を感じたが、思ってたのと違う感が強い上に、なんだかとっても残念な印象が残った本作。

本作を観て、はたして水木しげる御大はあの世でどう思っただろう?
ビンさん

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