空の落下地点

ココ・シャネル 時代と闘った女の空の落下地点のレビュー・感想・評価

3.0
サガン相手に反ユダヤ主義の話したんだ、シャネルってあんまり頭良くなかったのかな。反ユダヤ主義でナチの情報部にも登録され、イギリスの情報を売ってたのに、ユダヤ人の元宿敵ヴェルテメールと最後にはビジネスパートナーになって出資させた。主義がブレるのは「お金を持つことは自由になること」に帰結し、生い立ちが影響したのは明白。

神話になりたがってるから、蝶になった途端に芋虫だった頃の自分を悪く言うタイプなんだろうな。その美意識や芸術感覚によって、自分自身までも飾り立てようとした。シャネルにとって自分はホワイトボードでしかなかった。

力のある人とばかり恋仲になってたみたいだけど、この描かれ方を見ると失恋でちゃんと傷付けるタイプだったのかな。傷付くのは愛があった証拠で、世の中には権力や富に本気で恋愛感情を抱ける人もいるのかもしれないと思える。評判の悪い画家に夢中だったのは、自分をミューズにしてくれたから。歌手に憧れたり、スポットライト症候群めいたものが窺える。

才能のある女性が立身出世する為には愛人にならなきゃいけないなんて酷い。そういう意味では、ヴェルテメールは純粋にシャネルとエンパワメントし合える理解者でもあったのでは。
コルセットとミニスカートを否定し、おそらく女性の媚びを嫌ったシャネルは、どのような気持ちで愛人やパトロンに身を委ねたのだろう。私は利用されたのではなく、利用しただけだ、と言って説得力があるのは成功者だけ。何も持たない者たちは、どうすればいい。

強きに媚び、物質を愛し、決して感謝の念など持たなかった美の独裁者。
スイスに離脱し、ドイツに協力、それが有罪になりそうになったらアメリカに媚びた。ある意味ではユダヤ人と同じく、シャネルは国を持たなかった。
シャネルが好きにしたように、フランス人も“好きに”するようにシャネルをフランスの或いは自らの同胞の手柄と位置付け愛するふりをした(でなければ裏切りや迫害に寛容)。
模倣品にシャネルのロゴは印字できないように、誰もシャネルにはなれないので、人の生き方や考え方は真正面からではなく斜め前から眺めるくらいが丁度いい。
空の落下地点

空の落下地点