ボギーパパ

仕掛人・藤枝梅安のボギーパパのレビュー・感想・評価

仕掛人・藤枝梅安(2023年製作の映画)
4.2
劇場2023-8 熊P

池波正太郎先生 生誕100年記念作品。
公開初日1回目上映で鑑賞
「人は善いことをしながら、悪いこともする」
悪い事だとわかっていても、誰かにとっては善いことにもなる。池波先生の作品群にはよく出てくる人間哲学の具現化。

先生の作品は貪るように読んだものだが、仕掛人梅安シリーズはその中でも特別な感慨がある。
『仕掛人藤枝梅安 梅安冬時雨』を読み進めると突如現れる「絶筆」の文字による衝撃は今もなお忘れられない、、、

そして映像化された過去作も思い出深いものばかり。緒形拳、田宮二郎、萬屋錦之介、小林桂樹、渡辺謙、岸谷五朗、、、特に緒形拳さんの人懐こい梅安さん、錦之介さんの静謐な梅安が印象深い。あと林与一さんの小杉十五郎、山村聰さんの音羽の半右衛門も、、、

この作品は私の世代の方々からは、比較対象が多いだけに何かと厳しい目を向けられるかもしれないが、私は豊悦・梅安はこれまでの名優に勝るとも劣らない梅安を演じていると思う。
静謐にして厳然。色気も優しさも滲み出る。
原作の行間から醸し出される「梅安」を見事に演じている。素晴らしい!

また、片岡愛之助・彦次郎はどうか?こちらもこれまで中村嘉葎雄、田村高廣の名優が演じていた役どころだけに、、、と思いきや、
なかなかどうして!(特に回想シーンの彦次郎にご注目いただきたい)やや若いかと思うだけで、哀しみを湛えつつ、どこか飄々とした味がありこちらも素晴らしい!

本作大筋は『おんなごろし』をベースに置いている。原作の世界観は丁寧になぞられている。梅安さんと彦さんの会話の調子も、二人の風体(梅安さんは6尺の大男)も、品川台町の居宅や、一言多いおせきさんのおせっかい加減、出てくる料理の雰囲気(後述)も、、、おもんはもう少し肉付きの良い方が、、、(^^)でも菅野美穂さんもお綺麗でした!

そしてもう一つ、今作の肝はfemme fataleおみのを演じた天海祐希だろう。悪女を演じるのは珍しかろうが、凄み溢れる演技!
男に対する憎悪を腹に、色香を持って巧みにすり寄るところだけでなく、腹に秘めた悲しさが何よりも目で丁寧に演じられている。しなの作り方、足の運び方、着物の着方にも凄みが現れている。

また池波先生の作品は、料理により季節をわからせる趣向が盛り込まれている。鬼平犯科帳も、剣客商売もそうだが、梅安シリーズはその最高峰にある!彦さんの湯豆腐、津山悦堂師の好物鍋(油揚と鶏肉、菜っぱはなんだろう)、干し大根、大根を千六本に切り出汁でアサリと煮る鍋、畳鰯、鯨(かぶら)骨の吸い物、まぁ全て美味そうだし、酒をごきゅっと飲む様も作品に色付けしている。おせきさんの焼いた鯵の開きも美味そうだったなぁ、先生食べないなんて勿体無い!柚子切も良いねぇ

139分、大満足の出来だと思います。しかも4/7公開第二幕もあり、こちらも楽しみ!
エンドロール後に橋渡しの紹介がありますので最後まで席お立ちにならぬよう。
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