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かげを拾うのあのレビュー・感想・評価

かげを拾う(2021年製作の映画)
4.6
一度食べられた生活が、記憶となって吐き出される。元の生活からしたら捲れ出たタイルの床は未来だけど、タイルの床は青野さんにとっては結婚挨拶の時の緊張した過去を象徴している矛盾。

物はどの時点である人のものではなくなって、またどの時点でもう一度ある人のものになるのか、所有という概念の不思議さにただただ包まれる映画でした。元のアルバムと、津波に飲まれたアルバムの違いに、つい想いを馳せてしまいます。

こちらの美術に関する知識不足のせいか、寺山修司をさらに風雨に晒したみたいな青野さんの作風に、最初はかなり面食らいました。ただ、元の形に戻れない、元の生活の影を拾い集めて、元の生活みたいに再構成された瓦礫が、生々しく止まった食卓の時間を形作っている姿には、何とも言えない不思議な感覚を覚えました。

しかも、文字の出来など、こだわりのない細部には徹底的に適当な青野さんに、逆に確信が見えるところが魅力的です。さらにそれが、白飛びが激しく画質が荒い映像ながら、きちんと魅力的な場面をおさえている監督の作風と絶妙にマッチしているところがよかったです。

あとこの監督は夕方のチャイムを自由に操れる能力をお持ちなのでしょうか?
あ