映画おじいさん

猟銃の映画おじいさんのレビュー・感想・評価

猟銃(1961年製作の映画)
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山道で手を差し伸べられてもスルーしたものの、佐分利信の強引なナンパぶりに思わず「あなたの言ってること、ムチャクチャですもの…」と言ってしまう山本富士子。

その直後追い討ちをかけるように「こんな綺麗な紅葉を見たのは、ボクとアナタ、二人っきりです。二人で同時に見たのです。もう取り返しがつきませんよ」とワケ分からんことをのたまう佐分利信が最高! 以降、しばらくは「二人で悪人になろう」とか殺し文句の連続で震える。
おぼこい鰐淵晴子にプレゼントした画集を見せながら「これが愛だよ」とかもワケ分からん。何の絵だったか忘れたけど。

一方、山本富士子も「(夫にされた時は許せなかったのに)どうして自分の不貞は許せてしまうのだろう…」とか何言ってんだというようなことを独りごちている相当な強者。

何かと「今夜、パーティだから」と繰り返す岡田茉莉子。夫の浮気の腹いせにパーティガールになったり若いツバメをつまみ食いしてみたり。同年公開(茉莉子の次作)の傑作『女舞』とは大違いですな。

浮気が発覚してこれからどうなるんだろうと観客に思わせた途端にいきなり8年後に飛んだり、岡田茉莉子がホテルでの浮気現場を押さえていたことを告白するタイミングが唐突だったりとバランスの欠けた演出も最高。こんな演出でしたっけ?五所平之助は。

ゲスト出演的ながら重要な役の乙羽信子。狂ったような笑いの後に横にいた娘が微笑むのはホラー映画のような恐ろしさがあった。

あとどの場面だったかは思い出せませんが、ストーリーとは関係なく窓から見える煙突からモクモクと出る赤い煙が気になったのは私だけじゃないはず。
意味不明な『天国と地獄』オマージュ?と一瞬思ったけど、本作の方が製作が二年も早い。あの赤い煙はやはりたまたま?

正直、五所平之助はまあまあな手堅い作品しか撮っていない印象で全く期待してなかったのですが、こんな傑作があったとは。こういう映画がもっと観たい。五所作品で他にもこういうのあるんでしょうか。とにかく観るべき作品が増えて嬉しい限りです……。