Ayumi

ディア・エヴァン・ハンセンのAyumiのレビュー・感想・評価

4.2
世界でも、国内でもマイナスな意見が結構多いけど私は全力でこの映画を推していきたい。

こんなに泣き通したミュージカルはない。

もともとブロードウェイではすごく話題になっていた本作。映画化はないんじゃないかなぁって勝手に思ってたものだから、物語のあらすじを調べて全て読み、サントラを何度も聞いて楽しんでた。

そしたら、映画化の話があることを知り、しかも監督がスティーヴン・チョボスキーで、これは神が来た…!!!と思って日本で公開されるかも分からない頃からずっと心待ちにしてきた。

私がこの映画を心から楽しめたのは、あらすじを知っていて、そしてその物語に深く共感していたからだと思う。

ララランドやグレーテストショーマンのようなスケールの大きなものを期待していたら確かに、なんか違う…ってなっただろうな。

私自身どちらかと言えばああいう「ミュージカル最高!!!」って叫びたくなるような作品の方が本当は好き。ただ私は、音楽が素敵だなと思って聴いていた"Waving through a window"の歌詞がちゃんと耳に入った時に、「こんなことを歌ってくれるミュージカルがあるのか」と衝撃を受けてしまったんだ…。規模感とか、エンターテイメント性とかではなく、この作品の物語自体に心を奪われた。

'When you're falling in a forest and there's nobody aroud. Do you ever really crash or even make a sound?'
この歌詞本当に衝撃的だったな…。


作品全編を通して語られるのは、「1人じゃない」というメッセージ。更に言えば「1人だと感じているのは1人じゃない」んだよね。エヴァンだけじゃない。コナーも、ゾーイも、アラナも皆んな孤独を抱えながら生きてる。「1人じゃないんだ」と気付くだけでなく、「自分だけじゃないんだ」と気付けたらすごく気が楽になるよね。

その意味で、アラナの存在は大きかったなぁ…。"Anonymous"はブロードウェイ版にはないみたいだから、素晴らしいアレンジだったと思う。

'The parts we can't tell, we carry them well
But that doesn't mean they're not heavy'

いわゆるエヴァンのような周りとうまく馴染めない子だけじゃなくて、上手く馴染んでいるように見えて実は奥底に抱えているものがある子も沢山いるよな。アラナのお陰で、この作品がより多くの人の救いになった気がする。

そういう私は、普通にエヴァン寄りの人間です笑 ベン・プラットの演技が本当に説得力ありすぎて…感情移入しまくって涙が止まらなかったよ。人と話すのに難があるように見えて、一度話すと結構普通なんだよね。そうそう。スピーチのシーンなんか、本当に「頑張れ頑張れ」と泣きながら応援してしまった。

エヴァンが嘘をついてしまったのは、紛れもない事実だし、正当化すべきことでもない。ただ、嘘をついてしまったのは彼だけの責任だろうか?エヴァンが「1人じゃない」と思える環境に生きていたら、嘘をつく必要などなかったのでは?

だから「嘘をつくのは良くないよ」で感想を終わらせないで欲しい。何でエヴァンが嘘をついたのか?周囲がそうさせた場面はなかったか?それを考えることに意味があると思う。

沢山の人に対して嘘をついたことを認めて、その上で今からでもコナーについて知ろうと努力したエヴァンは偉いよ。またどん底に落ちてもおかしくないのに、自ら行動を起こしている姿を見れば、「ああもうこれから何があってもエヴァンは大丈夫だな」と思えたよね。ハッピーエンドとまでは言えないかもしれないけど、前向きなエンディングだったと私は思う。

ちょっと余談だけど、この作品を見ながら三浦春馬くんのことを思い出さずにはいられなかった。さっき調べてたら、春馬くんこの作品をブロードウェイで見て感銘を受けて、"Waving through a window"も一度コンサートで歌っているみたい…。この作品を春馬くんが見てたら…って思ったのに。現実で人の命を救うのはやっぱり簡単ではないか…。でも希望は捨てたくない。

こんな作品を作っても無駄だと、言うのは簡単。じゃあ何もしなくていいのか。そんな訳ない。

人が亡くなってからじゃ遅い。悩みを抱えている人の救いになるようなものを生み出す努力を、エンターテインメント業界にはどうか辞めないで欲しい。

私自身も、人知れず苦しんでいる人が自分の周りにもいるかもしれないこと、そして自分自身も1人で苦しまなくていいということを忘れずに生きていきたい。

2023.8
突然思い立って再視聴。2度目でも涙は止まらず。アラナのシーンを見て、実は吃音だと最近打ち明けてくれた知り合いのことを思わずにはいられなかった。普段、社交的で人前で話すのも上手で、そんなことは全く感じさせない彼。みんなどこかでコンプレックスや悩みを抱えて生きてるんだよね、と今作を見て改めて痛感した。
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