ふわもこベビーポンチョ

裁かるゝジャンヌのふわもこベビーポンチョのレビュー・感想・評価

裁かるゝジャンヌ(1928年製作の映画)
4.0
サイレント、モノクロという技術的な制約にかかわらず、その優れた画面作りやカット割りにより古臭さを感じさせない秀作。レストアのため画質が異常にいいことも確かに大きく影響しているのだが、この作品が100年近く経った現在でも未だ普遍的価値を持ちえているのはそれだけが理由ではないだろう。

表情。ただそれだけが映画に歴史的瞬間をもたらすことがある。『炎628』『甘い生活』にも同様の衝撃を受けたが、この作品もやはり人の顔だけが奇跡的に表現しえる、感情にまつわる唯一の真実を見事に映しとっている。それは饒舌な沈黙ともいうべきだろうか、言葉にすればその豊かさをたちまち失ってしまう類の、とてつもなく単純だがその実うんざりするほど複雑な機微だ。ジャンヌは泣く。泣き続けている。そこにあるのは勇猛な神秘に包まれた聖女の姿ではない。何者でもない一人の哀れな少女としての彼女の涙が、審問官に嘲弄される惨めさを、信仰を貫こうとする決意を、火刑の痛みを予感する恐怖を、ファンタズマゴリアのようにその顔に投影する。ここに人間の普遍的な宿命が凝縮しているからこそ、私たちは例え望まずともジャンヌの心に同化し、神の存在に思いを馳せ、足を伝って昇り来る業火につい身をよじらせてしまう。私は踝の溶ける鋭い痛みを知覚し、教会の空を往く鳥に向け声にならない叫び声を伸ばした。
表情。ビジュアルアートという文化の一切だけが映し出す奇跡。だから私は映画を観る。そしてジャンヌの夢を見る。