Angiii

MEMORIA メモリアのAngiiiのレビュー・感想・評価

MEMORIA メモリア(2021年製作の映画)
3.4
聞こえる音が、存在しない記憶を呼び覚ます―
共鳴する車、椅子の軋み、消えた男と同名の男。"爆発音のような音"に悩まされ、引き寄せられていく女、その先に待ち受けるものは果たして何なのか。

静かにそしてじっっくり進行していく本編は些細かつ不穏な予兆に支配されている。タルコフスキー『ストーカー』にも通ずる静かな水面のようなシーンの連続に、爆発音から始まる日常への違和感が水面下に潜む得体のしれない生き物のように見え隠れする。しかしあまりにも淡々と過ぎていくので少々抑揚に欠け、冗長であることは残念ながら認めざるを得ない。だがティルダ・スウィントンの魔性的魅力、(少し度が過ぎる長尺を耐え抜いて)ふと現る異質すぎるシーン、ヒントは少ないものの手にし得た断片でようやく繋がるような不穏なストーリーにゾワリとする。本作品ラスト部分から『彼女はアンテナ、彼はハードディスク』と表現し得ることから、ジェシカとエルナンは"彼ら"に選ばれし永久のアダムとイブなのか。

初めてのアピチャッポン作品、彼に対する情報をあまりもっていない故に示唆に富みすぎる本作品はかなりのエネルギーを消費した。しかし淡々した間接的な不穏の演出とテーマの提示はかなり好みなので機会があれば他作品も鑑賞してみたい。
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