シカク

ベルイマン島にてのシカクのレビュー・感想・評価

ベルイマン島にて(2021年製作の映画)
4.0
"ベルイマンエステート"という島に滞在して自然と文化にインスピレーションを掻き立てられて創作活動に没頭出来るプログラムがある事自体を初めて知り、世界中のベルイマンを敬愛している映画監督を始めクリエイターや芸術家などが今日も集っているということに、面白くもありクリエイターファーストな取り組みに興味深く感心した。本作は映画監督カップルの通してベルイマンエステートでの創作的探求を疑似体験出来、上手く体現していて、ベルイマンは未見で知らなかったけれど、凄い興味がそそられた。そもそも全くその辺りの事情を知らない人にまでも取り込む発想ないし監督の手腕に拍手👏

島の映画館でベルイマンの映画を観た後の主人公クリスの言葉を借りると、「普通ホラー映画って現実には起きないって安心するけど、彼の映画は孤独、苦しみ、死への恐怖が満ち溢れいて辛い、でも好きなのよ」と言わしめる作風と、私生活では五度の結婚と9人の子がおり、島民との談話で作り手の作品と人格の相互関係への見解として「一貫性を求めてしまうの、好きなアーティストにはいい人であっ欲しい。 答えは出てるじゃないかベルイマンは作品でも人生でも残酷だった。 そうね、でも」と口ごもってしまうほどの人物評は、主人公が敬愛しているはずだがどこか煮え切らない様子が 物語っていた。そしてそれはオーヴァーラップして同業者でありパートナーのトニーに対して向けられるものでもある。トニーが執筆中のノートを覗き見すると、そこには脚本とともにサディスティクできつめなイラストが描かれているのが、お互いに意見などが噛み合わなかったりすれ違ったりで表面的にはそうでもなくても不信感みたいなものを募らせる起因となるような暗示的カットが意味深であり不穏な瞬間だった。
二人のなんとも言えない心理が垣間も見えてしまうのだが、なんといっても、フォーレ島の圧倒的美しさ。絵のような風車の塔で何事も反面で捉える癖のあるクリスがここって美し過ぎると思わない?穏やかで完璧で息が詰まる、机に座るのも怖いとこれからの創作活動に水を差すようなこと言うが、ビビットで鮮やかな海の青と草木の緑や屹立した奇岩とウラハウと呼ばれる砂丘それからベルイマンが晩年を過ごした家や建物、壮観な原風景と偉大なる師の息遣いを感じられ、内容の考察よりも観ているだけで心洗われ満足してしまった。貸し出されている自転車でサイクリングして夏のフォーレ島の魅力を潮風と共に全身で浴びているシーンは爽快そのものだ。ベルイマン映画でもあるみたいなのだが、途中から映画内映画の要素が巧みにカットインし、映画的な見せ方も凝っていて現実と虚構の狭間で浮遊する感覚を覚えさせるのも今作のある意味特殊な映画芸術のメッカと言える舞台とシークエンスに合っていたと思う。キャスティングも最高だった。ティム・ロスは大好きだし、クリス役のヴィッキー・クリープスとジョゼフ役のアンデルシュ・ダニエルセン・リーはなんか見たことあるなぁと思ったら「オールド」や「わたしは最悪。」に出てたんだと後になって納得、一度他で見たら意外と忘れないもんなだなと、それ程、演技や存在感が印象にあったんだろう。

昨今のフランスの新鋭監督は凄い「アマンダと僕」のミカエル・アースは彼女の作品に感銘を受け、手紙を送ったらしい。今後も作風こそ違うと思うがベルイマンの意思(ベルイマンエステートはかねてよりベルイマンが監督や芸術家や学者のインスピレーションとアイデアの源泉として創作や研究の拠り所にしたいという願望が基)を引き継ぐ、ミア・ハンセン=ラブという名の映画作家の動向に注目したい👀。
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